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□5.狼まであと何秒?
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アレ→ティエ。地上にて。









ティエリア用に、という考えで買った為に自分には似合わない赤チェックの傘をさし、アレルヤは帰宅時間ピークで人の多い往来を上手い具合いにすり抜けながら走っていた。アスファルトに足をつける度、水が撥ねてスウェットの裾を濡らす。
午前中までは、これでもかという程に晴れていたのに、いきなり空に厚い鈍色の雲がかかったと思えば、あっという間に泣き出してしまった。借りているアパートで読書に耽っていたアレルヤは、窓をうつ雨音に午後からティエリアが買い物に出掛けて行っていたのを思い出した。ティエリアの携帯端末に通信を入れたところ、しかし忘れて行ったのか、呼び出し音が台所で鳴った。
そこで、アレルヤは急いで部屋を飛び出したのだ。ティエリアがどこに行くかは聞いたていたし、順番もばっちり覚えている。この時間ならたぶん、最後に寄ると行っていた本屋辺りだろう。そう当たりをつけて、アレルヤは大切なその人を探した。


「ティエリア!!」

案の定、ティエリアは本屋からアパートまでの道のりの中程にいた。
いた、のだが。

「ティエリアっ!こんな濡れちゃって…風邪引いちゃうよ!」

急い
で雨にうたれるティエリアの傍まで駆け寄って、傘をさしかける。ぱちぱちと幾度か真っ赤な瞳を瞬かせた後「平気だ。本はちゃんとビニールを被せてある。」とどこか自慢気に言うティエリアに、アレルヤは溜め息を溢さずにはいられなかった。

「そうじゃなくてね、君が濡れるのが一番、僕は困るんだよ。」

「?」

意味が分からない、という風に眉を寄せるティエリアに、アレルヤは自分の言いたいことは飲み込んで、水を含んで普段より色の濃いカーディガンに包まれた肩に手を乗せ、心持ち引き寄せる。周りの男達が残念そうにこちらを見ているのが分かった。いつ一人のティエリアに傘を差し出そうか、迷っていたのだろう。そうはいかない、とアレルヤはティエリアの横に並んで歩き出す。
傘は一本だけか?とティエリアの怪訝眼差しが訴えてくる。

「あー…、急ぎすぎてね、忘れたみたい。ごめんね。」

「……急いで来たことについては褒めてやらんこともない。」

次から気を付けろ。そう言う不遜な態度のティエリアに苦笑しながらも、傘が一本しかないことを理解したティエリアが、自分の二の腕辺りに肩をぴたりとくっつけてくることに、アレルヤは胸を高鳴らせ
た。







***

「ちょっ、…待ってティエリア!!!」

胸を高鳴らせた相合い傘状態冷め遣らぬまま、アパートについた途端玄関に敷かれたマットの上でカーディガンを脱ぎ捨てるティエリアに、アレルヤは焦った声を上げた。鬱陶しそうにこちらを見上げるティエリアの瞳も気にならないくらいにはパニックだ。

「衣服が水を吸って気持ち悪い。」

「で、でもお願いだから、脱衣所で着替えて!」

「そんなことをしたら廊下が水浸しになるだろう。」

ティエリアの艶やかな菫色の髪からはぽたぽたと水滴が落ち、下を見れば衣服からも滴(したた)った水でマットが変色し始めている。だから濡れた服をマットに包んで脱衣所に運んでくれ、などと真顔で言われて、アレルヤは泣きそうになった。その間にも、ティエリアが靴下を脱ぎ捨てる。
一緒のアパートに一時的に滞在しているとはいえ、二人は恋人同士ではない。しかし、地上に家を持たないティエリアがスメラギに誰の家に行く?と聞かれた時アレルヤ、と即答された辺り脈がないわけでもなさそうで、今はアレルヤがぐだぐだと告白のタイミングを図っているのだ。と、いうことはティエリアに対してそれなりの欲は持っているわけで。
加えてこの数日一つ屋根の下で暮らして、ティエリアのうたた寝を目撃してあどけない寝顔にどきりとしたり、風呂上がりのティエリアを直視できなかったりと、色々溜っているものもある。これ以上自分の雄な部分を刺激しないで欲しい、というのが本音だ。

「そ、それなら、タオル持ってきてあげるからっ」

だから勘弁して!と叫び出したい衝動にかられたが、ティエリアは「君にそこまでして貰う筋合いはない、」とアレルヤの心情は何一つ汲むことなく、さっさとスウェットを足から抜いてしまった。

「だ、ダメだってば…!」

そう言いつつも、目線が真っ白で細く、長い足に目がいってしまう。濡れて肌色の透けるシャツとか、上にそのシャツだけを着た格好とか、何より少し長めの裾から伸びる足とか。ティエリアの全てがこの上なく劣情を誘った。目がちかちかする。こんな無防備な姿を晒すなんて、気を許されているらしい自分を、アレルヤは初めて恨めしく思った。

(も、無理…!)

シャツの裾から、水滴が露出した足を伝い落ちる。
その瞬間にいろんなものに負けたアレルヤは、目の前の身体に手を伸ばした。







狼まであと何秒?



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