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□2.眠るきみに秘密の愛を
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アレティエ前提ロッティ?
ロックオン視点、シリアス










『ティエリアのこと、お願いしますね。』

あんなことを言って、よくいつも通りに笑えるものだと、ロックオンは思った。でも、その銀色の瞳は憂いをいっぱいに讃えてゆらりゆらりと揺れているのも、本当だった。

(あいつは、アレルヤは、諦めることに慣れすぎてるんだ)

否定する言葉なら、いくらでもあった筈だった。でも、そのどれも口にせずにロックオンはアレルヤに対して曖昧に笑んだだけだった。
ぎゅっと、移動用のレバーを掴む手に力が入る。あれだけティエリアに尽していたアレルヤが、その手を簡単に離した。放っておけないと言っていたティエリアから、目を反らした。――いや、それは決して簡単なんかじゃなかった。アレルヤにとって、苦渋の決断だったのだろう。一番大切な人を、他の男にやるなんて。

(アレルヤは、優しすぎるからな。)

そんなアレルヤを、ティエリアも好きだったことを、ロックオンは知っていた。一緒にいると安心する穏やかな空気と、どこまでも優しく滲む銀の瞳。心を溶かすような声が、気に入っているのだと。
それでも今、そのティエリアの興味を一身に受けているのはロックオンだった。長い時を共に過ごしたわけでもない。ただ、身を呈してティエリアを助けただけだ。あれはもう、ほとんど反射だった。しかし、今はそうして良かったと、ロックオンは心から思っていた。

(でも、)

静かに、目の前のレストルームの扉が開く。その中には一人、求めていた姿がいて。

「ティエ…」

その名を呼ぶ声を、しかしロックオンは直ぐ様ひっこめた。レストルームに設置されているテーブルに、ティエリアが突っ伏して寝ているのだ。
重力下なので、足音をたてないように十分注意して近付く。自らの腕を枕にくぅくぅと静かな寝息をたてているティエリアの顔を覗き込めば、驚くほど睫の長い整った白い顔は、ひどく幼い。

(ティエリアの幼さが、たぶん、とても好きだ)

触れてしまえば、壊れてしまいそうな弱さも。
それでも、ロックオンは知っていた。ティエリアが自分を、消えたヴェーダの代わりとして見ていることを。自分を、絶対視していることを。

(俺は、そんなに強くないんだぞ、ティエリア)

ただ、汚いことを沢山経験したから、器用な生き方を、知っているだけ。
人より少し、うまい恋のしかたを知っているだけ。

(こんなとこで寝てると、風邪ひいちまうな)

そっとティエリアの艶やかな髪に触れてから、その部屋を後にする。ブランケットを持ってくるには、一度自室に戻らなければいけなかった。





再び戻ってきたレストルームで静かに開いた扉の向こうを見て、ロックオンはその部屋に入れなくなった。

「てぃえりあ、」

ティエリアの肩には、自分が持っている紺のとは違う、真っ白なブランケットがかけられている。

(…アレルヤ、)

寝ているティエリアの横に立っているのは、アレルヤだ。たぶん自分より先にティエリアのうたた寝を知ったアレルヤが、ティエリアの為にブランケットを持ってきたのだろう。当のアレルヤはロックオンに背を向けていて、こちらには気付かない。
ロックオンは息を呑んだ。

(まだ、そんなに好きなくせに。)

ティエリアの髪をゆっくりと撫でるアレルヤの手は、慈愛に満ちている。ティエリアを呼ぶ声は、驚く程に優しかった。目の前にいる人が好きで好きで狂おしいほどで、だからこそ離れようとしているのが分かった。
痛い程だ。

(きっと、俺が言わないと、気付けもしない愛なのに。)

ロックオンを神聖化する余りにアレルヤへの幼い恋に気付かないティエリアも、だからこそ諦めることに意味はないアレルヤも。
たぶん二人とも、気付けもしない。

アレルヤが、ティエリアに顔を近付ける。
ちゅ、と小さなリップ音がした。

「ティエリア」

その光景が見ていられなくなって、ロックオンはアレルヤに気付かれない内に、とレストルームを出ようと扉に向き直る。

「ティエリア、好き、だったよ。君だけが、…出来損ないの僕を、人間にしてくれたんだ。」

愛を教えてくれて、ありがとう。そう言うアレルヤの声を背中に受けながら、ロックオンは通路に出た。無重力に、ふわりと深い深い海の色をしたブランケットが広がった。始まりの海の色は、子供みたいな君に、とても似ている。

(でも、それでも、手に入れたいんだ、アレルヤ。)

ごめんな。心の中で静かに言う。
背後で扉が閉まる瞬間、アレルヤの声が聞こえた。最初で最後の、愛を。

「さよなら、ティエリア」

きっと誰も幸せになんて、なれなかった。








眠るきみに秘密の愛を

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