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□4.君の心にふれさせて
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アレティエ。付き合い始めな二人。
アレルヤ視点
『すき、』
気付けば、抑えられない思いを言葉にしてしまっていた。
驚いたような君の顔は、今でも脳裏に張り付いて離れてはくれない。なんで、と君は震える声で言った。なんで俺なんかに、と。
理由なんて、考えたこともなかった(だって言葉にできる程、この思いは軽くない)でも敢えて理由を並べるなら、僕がここにいて、君がそこにいたから。それだけだった。
そう言えば、君は更に驚いた顔をした。泣きそうな顔、だった。
『そんな顔、しないで。ティエリア…もう一つ理由をつけるなら、君を笑顔にしたかったんだ。』
君の悲しみを一緒に背負って、僕の感じる喜びの全てを分け与えてあげたかった。
『そんな風に、一緒に歩いていきたいよ。』
『君は…、』
ばか、だな。とても馬鹿だ。そう言って笑った顔は、たぶんずっと忘れない。
「アレルヤ、」
アレルヤのベッドに乗り上げたティエリアが、同じくベッドでペーパーバックを広げていたアレルヤに、二冊の本を差し出す。
「ん、なぁに?ティエリア」
アレルヤは自分の読んでいたものから目を離し、ティエリアに視線をやった。
「これと、これ、どっちが面白かった?」
そう言って真っ直ぐに見つめてくるティエリアに、アレルヤはぱちぱちと瞬きを繰り返した。だって、ティエリアが差し出した本は二冊とも、もうティエリアは読み終った筈だった。それなのに、なぜ自分の意見など聞くのか。
とりあえず、最後の最後でどんでん返しがあった右側の本を指差す。ちなみに、その本がハッピーエンドだったのも大きな理由だ。ふむ、とティエリアが納得したように頷いた。
「なんでそんなこと聞くの?…ティエリアはどっちが良かった?」
「じゃあ、お前と同じので。」
「…じゃあ?」
自分の道を行くティエリアがなぜ自分にあわせるようなことを言うのか、その理由が分からなくて、アレルヤはティエリアの顔を覗き込む。そうすれば、ティエリアが少しだけ後退りしながら、「俺は…人間らしい感情に乏しいらしいからな。…君が良いと思ったことを、良いと思えるように、」なりたい。そう小さな声で、なんだか難しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔で言われて、アレルヤは頬が熱を持つのを感じた。
(僕の感情を理解したい、だなんて)
まじまじとティエリアの顔を見つめていれば、ティエリアがふい、と顔をそらした。今更、恥ずかしくなってきたらしい。
「…っ、アレルヤ、他の本を、」
貸せ、と言われたので、とりあえず苦手らしい恋愛小説を避けて、推理小説を渡す。渡す時に一瞬だけ触れ合った手と手にどきりとして、しかし内心溜め息を吐きたくなった。手と手が触れ合うだけでどきどきするだなんて、どこの中学生だ、とも思う。
(でも、しょうがないよね。)
ちらりと、隣に座り今渡されたばかりの本の表紙に視線を落とす恋人に視線をやる。
その柔らかそうな頬に触りたい。薄紅色のふっくらとした唇に己れのそれを重ねたい。細い肩を抱きたい。そして、薄い背に手を回したい。そんなことばかり考えている自分に、アレルヤはやるせなくなる。恋人なのだから、拒否はされないだろう。それなのに、一歩を踏み出せない。
(でも、踏み出せばどうなるか、確かめたい。)
ティエリアは何を思って、恋人の男のベッドに乗り上げてくるのか、何でもないみたいにアレルヤが喜ぶ言葉を口にするのか。こんなに近くに、いるのか。
(足り、ない。)
今のままじゃ、足りなくなる。もっとちゃんと、ティエリアが自分のものだという確信が欲しかった。
意を決して、ティエリアに手を伸ばす。読み始めていた本を遮るように、ぱたりと本を無理に閉じさせれば、ティエリアの甘い真紅の瞳がアレルヤの方に向けられた。おかしいくらいに、胸が高鳴った。
「ティエリア、」
「……、アレルヤ?」
なに、とティエリアの瞳が見開かれる。ティエリアの二の腕をやんわりと掴み、距離を詰める。ぱさり、とティエリアの手の中の本が床に滑り落ちた。
もう片方の手を、細い腰にするりとまわす。カーディガン越しに、温かな体温を感じた。あ、と小さくティエリアが声を漏らした。
(あと少し、)
ティエリアとの距離が近くなる。見惚れる程に整った顔が今までにないくらい、すぐ近くにあった。
「…ゃ、」
ティエリアの体が一瞬こわばったかと思えば、やだ!!と叫ばれながら、突き飛ばされた。
「…え、」
「……っ」
アレルヤがバランスを崩した隙に、ティエリアが直ぐ様ベッドから降りる。そのまま部屋を出ていかれて、アレルヤは拒絶された事実にただただ呆然とするしかなかった。
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