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□Slackness
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あれ、なんかちょっと暑いかも。そうアレルヤが地上滞在先のアパートで感じてから一時間半が過ぎ、そこはちょっと目も当てられない感じになっていた。
室内温度上昇の原因は言うまでもなく空調設備の不具合。端的に言えば、エアーコンディショナーの故障。しかし目も当てられないのは、日本の真夏にそんな状況陥った不幸な自分ではなく、ソファに座ったアレルヤの膝の上でまるで息耐えそうになっている人物だ。

「……あと、どのくらいだ」

はふ、と短く熱っぽい息を吐き、日に透ける白い頬を薄桃に染めたティエリアが、アレルヤの膝に頭を預けながら見上げてくる。手元にあった雑誌でぱたぱたとティエリアを扇いであげる手は止めずに、アレルヤは端末の電子時計の数字を見やる。

「あと30分てとこかな。それまでの我慢だよ。スメラギさんからの通信があったら、何処か空調の効いたところに出かけようね」

「……」

返事をする気力も残っていないかのように、ティエリアがアレルヤの膝にすり、と頬を寄せてくる。自分ではどうしようもない出来事に出会った時、そして理解できない事柄に遭遇した時、ティエリアはアレルヤに頼るのが常になっていた。
刹那に頼み事をするのはプライドが許さなくて、ロックオンには冷やかされるのが嫌なのだと言う。
無言の、そしてなんとも動物的な“この状況をなんとかしろコール”をするティエリアが可愛くて堪らないアレルヤは幾度かその身体を腕の中に迎え入れようと手を伸ばしたが、その度に叩き落とされていた。これ以上暑苦しくするな、ということだろう。しかし、アレルヤにすがらずにはいられないのも事実のようだ。
アレルヤはひとつ苦笑して、髪が流れて剥き出しになった白い項にキスを落とす。抵抗が見受けられなかったので、もう一つ。ひくりと小さく反応するだけで嫌そうにはしないティエリアの意図が、アレルヤの膝を借りている状況だからアレルヤのしたいようにさせてくれているのか、それともただ暑くて動くのが億劫だからかは分からなかった。

「あと少しだよ、我慢してね。それとも何か冷たいものを作ろうか?何でも言って、できるだけティエリアの望みを聞いてあげるから」

「…いらない。こんな状況で君に労働を強いるほど俺は鬼ではないし、今は膝を提供していればそれで良い」

暗に離れるな、と言われているのが分かって、アレルヤは頬が緩んだ。
可愛い、可愛すぎる。というか無防備すぎる。だらりと力の抜けた細い肢体も、暑いからだろう半袖から覗く白い腕や釦が多めに開けられたシャツの胸元も。そんなことを考えているのが伝わったのか、ティエリアが「暑さでいつも以上に脳が可哀想な状態なのは理解できるが、変な目で見るな」と冷たい視線を投げてきた。態度と言葉が食い違いすぎている。

「はは…ごめん、」

しかしどちらにせよ、あと30分はスメラギからの定期報告の為にこの部屋にいなければいけない。ミッションに関わる話を外でするわけにはいかないので此処を出て違う場所で涼むことはできないし、エージェントが用意した他のアパートへ行く程の時間はなかった。
完全に軟体動物と化したティエリアが少しでも涼しいように雑誌で扇いで風を送る手を早めれば、すまない、と小さく謝られた。「ティエリアは地球の暑さに耐性がないから仕方がないよ。君が少しでも楽になってくれれば僕は嬉しいし、」それに、労働力の見返りはちゃんと貰ってるしね。そう言いながら固く閉じた唇に己のそれを静かに重ねれば、ティエリアがとろりと瞼を下ろして苛烈な真紅を隠す。
欲しいな、と思っていれば、ティエリアが小さく口を開いてその奥の温かく柔かな口腔に侵入するのを許してくれる。

「…ん、……ふっ、」

ティエリアの、ヴァーチェの厚い装壁みたいなガードを普段より脆くする暑さに少しだけ感謝しながら、ティエリアの呼吸を奪うのに専念する。ティエリアはミッションに必要な事柄以外のスキルが中々上がらないから、キスだって全然うまくない。そしてアレルヤも毎回、キスの相手がティエリアであることが重要なんだし、気にしないで良いかな、とそんな調子であるので、一向にティエリアの上達は望めない状況だった。まぁ、どちらかと言えば、そういう方面に疎くないティエリアの方が不自然である気もする。
そんな拙い、しかし熱に溢れた口付けを終えてから、そういえば、とアレルヤは思い出した。日本に来た時に気に入って購入したものがあったのだ。アレルヤは地上の各地で異なる風情みたいなものを好んだし、何よりそれを見た瞬間に恋人の姿が浮かんだので衝動買いしてしまった一品だった。




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