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□平行線をたどる日々
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この狭いプトレマイオスの艦内に、娯楽と言えるものは限りなく少ない。以前地上に降りた時に購入した本を全て読んでしまったロックオンは余りの手持ちぶさたにふらふらと食堂までの道のりを進んでいた。
エージェントから定期的に送られてくる物資のリストに趣味である本を入れることはできないし、地上に再度降りるまでこの状態が続くのだろうと思えば、読書というのは手軽な趣味と言えないのかもしれない。そう思ってアレルヤの料理やラッセの体づくり、そしてティエリアのプログラミング、果ては刹那のガンダム(?)まで、プトレマイオス内でも実行可能な趣味を試してはみているのだが、中々熱中できるものは見付からない。…それとも手本にする人物を間違えているのか。
ともかく、ロックオン・ストラトスは現在、暇なのだ。スメラギから刹那以外のマイスターに与えられた小休暇をどう過ごすか悩んでしまう程に。
「あら。おはよう、ロックオン」
食堂に一歩足を踏み入れ、一番に声を掛けてきたのはスメラギだった。というより彼女以外の姿はない。おはようございます、と笑顔で返事をしながら、ロックオンはスメラギの斜め前の席に腰を下ろす。
「朝御飯ですか?」
「んー、まぁ、それもあるんだけど、ここにいると楽しい物が見られるの」
そう言ってにこりと笑ったスメラギに、ロックオンは一つ瞬きをしてから首を傾げる。それからスメラギの方に身を乗り出した。上手くいけば何か新しい暇潰しが出来るかもしれない、とそう思ったのだ。
「なんなんですか?それ。俺も見れたりします?」
「あら、興味あるの?」
「興味…っていうか、手持ちの本読んじまってすることがないというか…」
「なるほど。…そうね、今からここにアレルヤとティエリアが来るわ」
その言葉に、じゃあ楽しいことってアレルヤとティエリアと話をすることか?とロックオンは思う。他人との会話は暇を潰すには最適だ。しかし、暇だと言えば優しいアレルヤ辺りは会話に付き合ってくれるかもしれないが、ティエリアが暇潰しに誰かと話そうとするとは到底思えない。
そんなロックオンの思案をおいて、スメラギはまた笑う。
「これからね、ティエリアってば地上に降りるそうよ」
「へぇ?なんか最近、前より多くなった気が…」
「そーなのよ!これは絶対なにかあるわよー。アレルヤと!」
「…アレルヤと?」
スメラギの言葉の最後に出た同僚の名に、ロックオンはますます意味が分からなくて混乱する。どうしてティエリアの地上へ行く回数が増えると、それがアレルヤに関係してくるのか、さっぱり理解できなかった。…いや、思い当たる節が一つもないわけではない。よくよく意識してみると、昨日だって三食全てアレルヤとティエリアは一緒にとっていたのではないだろうかそれに、通路を行くティエリアの後ろをアレルヤがついて行っているのも何度か目撃したりもした。
近寄りがたいと称されるティエリアが温厚なアレルヤと行動を共にすることで少しは棘がとれると良いなぁ、くらいは思っていたが、それだけだった。しかしスメラギの表情がまるで少女みたいに(まるで、とかみたい、とか声に出したら怒られるが)わくわくとしているのを見て、ロックオンにも少なからず興味が沸いてきた。
どうせすることもなく暇なのだ。毎日マイスターのまとめ役という苦行を行っているのだから、少しくらい楽しんでもバチは当たらないだろう。
そう考えていたところで、食堂の扉が静かに左右に滑って開いた。
今日も今日とて完璧な容姿をした彼は、こちらに気付いたかと思えば迷いのない足取りでスメラギとロックオンの元に歩みを進める。
「スメラギ・李・ノリエガ、ここにいたのですか」
「あら、何か用?ティエリア」
「今日から3日程地上に降ります。許可を出してほしい」
ちらりと、ティエリアがロックオンの方に目をやるが、それだけだった。
「もちろん良いわよ。…貴方の分だけで良いの?」
「アレルヤ・ハプティズムの分も、」
お願いします。そう言おうとしたのだろう。しかし、その言葉はティエリアの口からは出なかった。その代わりに、ティエリアはほんの少しだけ目を見開いている。誰かと一緒に降りるなんてまだ一言も言ってなかったのに、という顔だ。
スメラギがますます面白そうに、固まってしまっているティエリアの顔を覗き込んだ。
「あら、またアレルヤと一緒?仲良いのね?」
「……そんなことは、ありません」
そうは言うがしかし、ティエリアの表情はこわばってしまっている。珍しいこともあるもんだ、とロックオンもスメラギに倣ってティエリアを見る。
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