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□平行線をたどる日々
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「あら、仲良くないんだ?」
「…っ、当たり前です。俺が誰かと馴れ合うなど、」
その言葉を聞いて、スメラギが苦笑する。たぶんロックオンと思うところは同じだ。素直じゃない、と。
じゃあ、とスメラギがティエリアを試すみたいに口を開く。
「ロックオンが暇してるみたいだから、一緒に降りてあげてくれない?…アレルヤじゃなくても、良いんでしょう?」
「「え」」
声を上げたのは、ティエリアとロックオン、同時だった。ロックオンはそんな事頼んでない、と思ったが、それよりも更に驚いて絶句しているティエリアが気になった。
言われてみれば当たり前のことだ。アレルヤ以外にもマイスターはいる。特に、ロックオンも同じ時期に休みを与えられているのだ。しかし、当たり前のようにアレルヤと二人で降りるのだと思い込んでいたティエリアは、そんな自分自身に驚きを隠せないのだろう。
すごい鈍さだ、とロックオンは思う。他人に寄り付かないティエリアがアレルヤを慕うのが無意識だなんて。
「アレルヤとじゃなきゃ駄目?」
「…っ、し、知りません!」
ぱっと、ティエリアの柔らかな曲線を描く頬が赤く染まる。
お、可愛い。なんて思ってしまったことは秘密だ。宇宙の塵になる。そのまま、ティエリアはくるりと方向転換をして行ってしまった。地上降下の許可云々はどうするのだろうかとロックオンが思っていれば、少しの時間もおかず今度は渦中の人物その二であるアレルヤが顔を見せた。
「あぁ、ちょうど良かった。スメラギさん、ロックオン、ティエリアを見ませんでした?」
結構な大荷物を持ってアレルヤがいつも通りの笑みを浮かべ近付いてくる。どうやら荷物の半分はティエリアの物のようで、アレルヤは本当にティエリアの世話を焼くのが好きだ。
ロックオンの隣で、スメラギが面白いものを見付けたとでも言うようにアレルヤに視線をやるのが分かった。
「ティエリアなら地上降下の許可取る途中で帰っちゃったわよー?そこでアレルヤに頼みがあるんだけど」
「頼み?何か買い物ですか?」
「違うわ。ロックオンが暇持てあましてるらしいから、一緒に地上に降りてあげてくれない?」
「…ロックオンが?」
アレルヤが意外そうに一つ瞬きして、ロックオンを見る。またこのパターンか、と内心で思いつつ今度は「そうなんだよ、暇で暇で…」と適当に話を合わせた。
しかし、アレルヤは困ったように、
「…すみません。ロックオンと一緒に降りるのも楽しいんですけど、やっぱりティエリアと二人で行きたいんです」
と薄く笑って言った。ロックオンの隣でスメラギが「あら、素直なのねー」と口にする。勿論、さっきまで此処にいたティエリアと比べて、だ。アレルヤは何のことかよく分からないのか、小さく首を傾げた。
「いいわねー、楽しそうで。ティエリアは貴方の家に泊まるの?」
「いえ、夕方にはエージェントのホテルまで送りますけど」
「…そうなの?ティエリアが泊まるの嫌なわけ?」
「え、そういうわけでは、」
なくって、と言ったきりアレルヤはなぜか頬を染めた。視線がうろうろと定まらない。どうした、とロックオンが声をかければ、アレルヤが言いづらそうに口を開く。
「えっと…、ベッドが、一つしか、ないから…」
だから、と小さくなってしまうアレルヤに、スメラギがチャンスじゃない!とかそのまま一緒に寝ちゃいなさいよ!とか言っているが、アレルヤにそんな思い切りがあるとは思えない。何を想像しているのか、顔を真っ赤にして混乱を極めているアレルヤが可哀想になって、ロックオンは溜め息を吐く。
「…もひとつくらいベッド買えば良いだろ、金ならあるんだし」
その言葉に、アレルヤが表情を明るくする。
じゃあ、今日さっそくベッド買ってきます!そう言った直後、しかしアレルヤの背後で食堂の扉が再度開いた。
「…っ、誰を連れ込むつもりだアレルヤ・ハプティズム!!」
それも、物凄い勘違いをしている。
「えぇ!?ち、違うよ!」
「何が違うんだ!俺が邪魔ならば素直にそう言えば良いだろう!…っ、俺は一人で降りる!」
「誤解だよ!僕はティエリアと一緒に…」
「っな!!誰が一緒に寝るか!」
アレルヤを怒鳴りつけ、ティエリアがまた何の用件も果たさずに食堂を出ていく。アレルヤが「だから違うってば、…いや、嫌ってわけじゃないけど」などと焦って言うのを、スメラギが楽しそうに聞いている。
「…楽しいものって、これですか」
「そ。暇潰しになるでしょー?」
ひとつ問題は、ぜんっぜん進展しないことだけどね。そう言って笑うスメラギの言葉を聞きながら、同僚の微妙な関係に気付いてしまった自分の心労はまた増えるのかと、ロックオンは溜め息を吐いた。
平行線をたどる日々
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