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□好きかも、しれない
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見渡す限りの緑色。搬送用コンテナはその姿を見付けられないよう、どの国の陸からも離れた無人島に隠されている。コンテナにガンダムの収容を終えたアレルヤは、先にガンダムを降りたティエリアの姿が見えないことを不思議に思い、辺りを見回した。
今回はそれほど難しいミッションではなかったのだが、接近戦の際に挟み打ちにされそうになり隙ができてしまったのだ。ガンダムから降りた途端にティエリアから罵声が飛んでくると思っていたが、それもない。
どこにいるのだろうと辺りを見回せば、ティエリアを見付けるよりも先にCBの整備主任であるイアン・ヴァスティがコンテナの向こうから顔を出した。

「なんだアレルヤ、何か気になることでもあったか?」

「いえ、大したことではないんですが、…ティエリア見ませんでしたか?」

姿が見えなくって。そう付き足しながら問えば、イアンが意外そうにアレルヤを見た。

「何か?」

「…いや、そういえば見てないが、お前さんが気にするなんて驚きだと思ってな」

「え、」

お前たち仲悪いんじゃなかったんだな。そう言われ、今度はアレルヤが驚く番だった。
そういえば、今回のミッションの前に毎回ティエリアとペアで平気かと予報士であるスメラギにも聞かれた。機体相性からすればこの分け方がベストだが、アレルヤが疲れるようならばロックオンと組むことも可能だと持ち出されたのだ。その時はなぜそんな提案をされたのか分からなかったが、ティエリアと仲が悪いのだと思われているのならば頷ける。

「別に仲が悪いというわけではないと思いますけど。…僕たち、そんなに不仲に見えます?」

「んー、不仲というか、ティエリアがお前さんによくつっかかってるだろ?だからアレルヤはティエリアと一緒に組むの嫌がってるんじゃいか、って思っただけだ」

お前さんが気にしてないなら良いんだ。そう言いつつ、イアンが無線機を手に取る。ティエリアに連絡をつけてくれるのだろう。
嫌がってはいない、とアレルヤは思う。ティエリアとマイスターの仲間として出会ってまだそれ程長い期間を共に過ごしたわけではないが、ティエリアは意味もなく怒ったりしないし、だからそんな理由で自分がティエリアを嫌うことは有り得ない。そう思うのに、周りからはそんな風に見られていたのだと、初めて知った。

アレルヤ、と呼ぶ声がして、アレルヤは声のしたイアンの方を見る。

「時間には戻る、ってティエリア言ってるから、お前もその辺で休んどけば良いんじゃないか?」

「そうですか…でも少しだけ、探してきますね」

なんとなく、ティエリアの姿が近くに見えないことに違和感を覚えた。探しに行ったって、邪魔だとか、あんな簡単なミッションも満足にこなせないくせにとか、そんな辛辣な言葉を投げられるだろう。でも、構わないとさえ思えた。
イアンが不思議そうにこちらを見て、小首を傾げる。

「……まぁ、止めやしないがな、お前さんも物好きだな。わざわざ怒られに行くようなもんじゃないのか?」

「そう…ですけど、ティエリアの言うことは正しいから。それに、」

「それに?」

それに、その正しさのせいで、ひた向きすぎる姿勢のせいで、ティエリアは損をしているように思った。それをイアンには言わず苦笑でかわしながら、それでは嫌だと、アレルヤ自身が思ったのだ。いつも誰かに反発して、でもそれが間違っているわけじゃないのに人の輪から離れていく。そんなの寂しいんじゃないかと、そう思ったのだ。

「いえ、でも、気になるんです。なぜか、彼のこと」

「ふーん?変わってるなぁ。あれか?普段擦り寄って来る子よりも、突き放されたりする子の方が気になるってやつか?」

「そ、それは違います」

相手はあのティエリアですよ?突き放すどころか撃たれちゃいます。そう苦笑で言ってから、イアンの元を離れる。
変わってる、なんてもう散々言われた。ロックオンにも、ミッションから帰還する度に労いの言葉を貰う。平気です、と返せば、毎回驚いたような顔をされた。あのティエリアと一緒なのに凄いな、とお馴染の台詞と共に。アレルヤとて、ティエリアにきつい言葉で自分の欠点を言われることが平気なわけではないのだ。しかし、自分などのためにミッションデータから割り出された情報を元に的確に弱点を伝え、改善点まで考えてくれるなんて、ティエリア以外の誰もしてくれない。怒ってくれるのは、ティエリアがアレルヤに無関心でない証拠だ。マイスターとして、伸びると思ってくれている。それが、何より嬉しかった。
幼い頃とは違う。結果が出ないと言って、簡単に諦められることも切り捨てられることもない。少なくとも、ティエリアはそうしない。




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