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□君のぬくもりが愛しい
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ティエリア視点









君はもう俺の部屋に入ってくるな!そう言って、ティエリアは扉を大きな音をたてて締めた。結局、焼きもちというやつなのだ。分かっているからこそ、悔しい。
現在、アレルヤとティエリアは地上にいた。今回は比較的長い休みではあるのでホテルは使わず、ごくありふれたマンションの一室に二人で住んでいる。
始めの内はとても楽しかった。新婚さんみたいだね、とそう言うアレルヤの言う通り、二人はいつでも一緒にいた。一応、寝室は二つに分かれているけれど昼にその部屋は使わず、リビングルームで二人でくつろいだ。買い物もティエリアは地上嫌いだが、アレルヤがいない部屋に残るよりは、という理由で一緒に行った。夜も、事に至ろうとそうでなかろうと、もちろん一つのベッドで眠った。

しかし、そんな生活が変化したのは三日目からだった。小さな訪問者によって。


「な、なんでティエリア!僕休みの内は毎日君を抱き締めて寝るんだって決めてたのに!」

「ば…っ!そんなこと勝手に決めるな!とにかく入ってくるなよ!!」

ティエリアの寝室である部屋のドアを挟んだ向こう側で、アレルヤの情けない声がする。
ティエリアから離されたら生きていけない!くらいの勢いで言うアレルヤにティエリアも可哀想か、と思うけれど、しかし引くことはしなかった。それは扉の向こうで、みゃぁと小さく鳴いた生き物のせいでもある。
数日前、窓から侵入してきた小さな子猫は、アレルヤの興味を独り占めした。宇宙での生活が長いアレルヤは、可愛い生き物に飢えていた。いや、その点ならティエリアで補っていたらしいのだが、ティエリアにはアレルヤの言うところの“毛”がない。ふわふわもふもふした、犬や猫の体毛。アレルヤはその猫にせっせと餌を与え、その代わりに、その暖かな体を抱き締めるのだ。その時のアレルヤの幸せそうな顏ったらない、とティエリアは思う。自分という存在がいるくせに、そんな生き物ごときに愛情を注ぎ、笑顔を見せるアレルヤが悔しかった。なにより、ちっぽけな猫ごときに負ける自分が嫌だった。
―何度も言うが、これはただの嫉妬だ。

「入ってきたら明日にでも宇宙に戻るからな!今日は一人で寝ろ!」

「えぇそんなの寂しいよ!それに、ずっと一緒に寝てたんだし、ティエリアだって、きっと寒くなるよ?まだ地上は冬だし…」


「そんなに寒いのなら猫とでも寝れば良いだろう!」

「嫌だよ!ていうか、もう夜だから餌食べたら帰っちゃったみたいだし、…それに、今日は久しぶりにエッチもしたかったのにっ」

「…なっ!だから、そういう即物的な言葉はやめろ!というか、お、一昨日もしただろ!何が久しぶりなんだ!」

君は猫にでも発情してろ!そんな、お隣さんに聞かれたらまずい感じの捨て台詞を残して、ティエリアはドアの側から離れた。このマンションに来て一度も使っていなかったベッドに潜り込む。
何度かの言葉の後、アレルヤがドアの前から離れたのが分かった。たぶん、隣のアレルヤの部屋に向かったのだ。最後にアレルヤがごめんね、と言った。「君との貴重な時間を無駄にしたかったわけじゃないんだ、…ごめん。僕はティエリアが世界で一番可愛いと思うし、大好きだ、って、思うからね」そんな言葉を残して。
なんだ分かっていたのか、と思う。子猫にうかれていたアレルヤも、冷静になればティエリアの考えなんてすぐに分かってしまうのだ。ああそれなら、こんな意地を張らずにアレルヤの部屋に行けば良かった。早くもティエリアはそう思い始めていた。
だって、アレルヤの言う通りに、一人の部屋の中は寒かった。地上の冬は寒いからと毛布を沢山買ったにも関わらず、まだ寒い。この部屋で寝たことがないから、中々毛布が暖まらないのだ。それにティエリアの体温はもともと低くて、アレルヤがいるみたいにはいかない。

「…僕は、アレルヤがいなくても平気だ。ちゃんと、寝られる」

自分に言いきかせるみたいに言って、頭まで毛布をかぶる。
ぎゅうと目を瞑って、どのくらいの時間がたったのか。ティエリアはごそごそと布団が動く音で目を覚ました。まだ完全には寝ついていなかったから、あまり時間はたっていない。ティエリアはやっと眠りに落ちかけた意識を引き戻した。アレルヤがベッドの中に入ってきたのだろうか、と思う。
それなら、朝まで気付かないふりをしてやろう。アレルヤ同様、ティエリアだって寂しいのだ。怒るのは、朝でも良い。許してやるのは、その後だ。



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