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□愛を知らない恋人
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今日はミハエル達と遊びに行きたいからバイトを変われと言うのだ。仕事内容も知らないのに無理に決まっている(しかし隣でロックオンが「俺もライルに頼もうかなぁ。せっちゃんと遊びたい…」なんて言っている)
今日は、それどころじゃないのだ。

「…っ、僕、ティエリアのとこに行ってくる!」

ハレルヤが怪訝な顔でいつもへこへこついて行ってるだろ、なんて言った。近付いてきたハレルヤにロックオンが手早く説明すれば、ハレルヤが目を細め眉間に皺を寄せる。

「あいつだってそんな脆くねぇんだし、ほっといても平気だろ」

「なんでそんなこと言うのさ!ティエリアはあんなに細くって…」

「ちげぇよ。お前にかまわれんの、あいつ嫌がってんじゃねぇの?」

吐き捨てるように言うハレルヤに、かっと頭に血が上る。そんなこと、最近のティエリアを見ていれば自分だって本当は分かっている。気付かないフリをしていただけだ。苦しげにそらされるティエリア視線も、無意識にか一歩下がる身体も、少し触れるだけでも驚いたように引かれる手も。
愛される為に好きになるんじゃないと言うけれど、そんなの上部だけに決まっているじゃないか。
好きに、なってほしいです。

「それでも、行かなきゃ」

「…そんなに一人ぼっちのあいつが可哀想なのかよ?そんな同情なんかな、」

「……っ、うるさい!大好きなんだから仕方がないじゃない!…ハレルヤの馬鹿っ!!」

ヤツ当たりだって知ってるのに止まらなくて。ロックオンに名を呼ばれるのを聞きながら、教室を飛び出していた。
早く見付けてあげなきゃ、と思う。ティエリアの姿が見えなくて焦りばかりが募った。真っ直ぐな菫色の髪も、細い凛とした背中も、全部全部守ってあげたいのに。




「ティエリア!!」

はっとした顔で振り返ったティエリアの表情が、みるみるこわばる。ぎゅう、と胸に抱いた物(教科書か、ノートだろうか)がその力に押し潰されそうだ。
あれるや…、?と、か細く消えてしまいそうな声を出したティエリアの足元には、二人の男が転がっていて、前にもう一人が立っている。

「何して…?」

「アレルヤ、俺は「こいつがいきなり二人を殴り倒したんだよ!!こっちが甘い顔してりゃ良い気になりやがって、女みたいな顔してとんだ暴力野郎だな!」

ティエリアが無言で男を睨みつける。
男の言うことは大体が間違ってはいないだろうと、アレルヤも思う。ティエリアはこう見えて力が強いから、滅多にしないけれどきっと喧嘩にも強いのだ。
ハレルヤの言う通りだ。力は強くても弱虫で人を殴ったり出来ないアレルヤより余程、ティエリアの方が強い。守る必要もない。

「…だろうね」

「…っ、アレルヤ!」

でも、ほら、君がこんなに悲しそうな顔をするなら、やっぱり守ってあげなくちゃ。

「でも、ティエリアは不必要にこんなことをする子じゃないよ。どうせ君達が馬鹿なことをしたんでしょう?」

行こう、とティエリアの腕を掴む。見開かれた瞳が、どこまでも深く寂しいワイン色を、もう放ってなんておけない。

「おい、離せ!」

いつもの強気に戻って睨んでくるティエリアに、アレルヤは早足で進んでいたスピードを緩めた。向かう先は校舎一階の端にある保健室だ。

「ティエリア、まだ我慢するの?痛いんでしょ、」

腕。そう言えば、ティエリアがますます機嫌悪そうにした。アレルヤが掴んでいない方の腕は、学生服から出ているだけでも赤くなっている。強く握られでもしたのだろう。
そう思うだけで、アレルヤはざわざわと波打つ自身が嫌になった。誰かに触られるのさえ嫌だなんて、重症だ。

「ねぇティエリア、そんな怪我までして、なんでこんなことしたの?」

痛いよね、大丈夫?そう言ってあげたいけれど、言わない。

「離せ…!俺に触るな!っ、なぜ俺にかまうんだ君はっ!?」

腕をアレルヤから離そうと、ティエリアがぐいぐいと引く。その姿があまりに必死で、悲しくなる。だって、そんなに嫌いなのかと、いつもみたいに後ろ向きに考えてしまう。
ねぇ、答えてよ。仕方がなく責めるみたいに言えば、ティエリアが泣きそうな顔をした。初めて見た。こんなに悔しそうな君なんて。

「あいつらが、俺のノートを勝手に机の中から抜き出したんだ!俺が好きだから、俺の物が欲しかった、なんて言って…!前にやられた時は何もしなかったから、それを良いことにあいつら、!」

「そう…」

「っ、俺は、俺を好きだと言うやつが嫌いだ!誰も彼も、俺に好意を押し付けようとしたり無理矢理俺の気を引こうとする、」

「なんで、誰にも言わなかったの?君は何も悪くなんてないじゃない」




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