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□朝、その前に
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特に色っぽい話ではないです…笑
ティエ視点
夜明け前、強い欲求で目が覚めた。時折、こういうことはあるのだ。
しかし、今日の場合は原因が分かっている。そうだ。寝る前に、少し喉が渇いたから食堂に行って水でも飲んでこようと思っていたのだ。それなのに、部屋を出た瞬間に、会う予定のなかった男――――アレルヤ・ハプティズムに遭遇した。遭遇というのは、通路でばったり、ではない。扉を開けた瞬間、すぐ目の前に立っていたのだ。どうやら、この部屋を訪ねに来たらしい。
その事実に、どくりと高鳴った自らの心臓を、ティエリアは激しく煩わしく思った。ああだって、あんなに嫌っていたじゃないか。
『ティエリア…良かった。まだ寝ていなかったんだね』
ふわりと柔らかな笑みを浮かべてアレルヤが言う。
『ちょうど君に会いに来たんだ。部屋に入れてもらっちゃ…だめかな?』
そして、困ったように笑顔は崩さないまま、眉を下げる。その表情が心底苦手だって、知っているのだろうか。目の前のバカは。
『……別にかわまない』
とは言ったけれど、こんな夜中に訪ねてくるとは何事だ!と怒鳴ってやりたい気分でもあった。
でも、言わない。だって知っているんだ。約束もなしにアレルヤがこの部屋を訪れる理由。
『有難う…僕、情けないけど、また、不安で、』
眠れなくて、とアレルヤは言った。
『お前が情けないのは前からだ』
『はは、酷いな』
そう言いながら、ぎゅうと抱きついてくる。でかい図体をしているくせに、こいつは馬鹿みたいに甘えるのが上手い。
そして自分は、アレルヤを利用するのが上手いのだ、とティエリアは思った。
『ティエリア…あったかいね、』
ミッションが終わった日の夜、必ずといって良いほどティエリアの部屋を訪れるアレルヤは、こうして生きていることを確認する。
そしてティエリアは、そんなアレルヤに縋りつかれる体温で、自分だけを頼ってくる彼を見て、自分はまだ生きているのだと、自覚するのだ。
***
と、そういう話は今はどうでもいい。そんなシリアスよりも、その過程で、その後、誰にも見られていないのを良いことに最大限甘えてくるアレルヤのおかげで、そのまま添い寝(ここは重要だ。別に何もしていない)をしたことで、水を飲みにいく、という第一目的を忘れ、眠りについてしまったのだ。
そして、今。そうだ。起きてしまったなら今からでも食堂に行けば良いと思われるかもしれないが、それが難しいから話がややこしくなるのだ。
「く…、この馬鹿力め!」
アレルヤを起こさないように無言で奮闘していたが、それももう無理だ。そもそも、アレルヤを起こさないように、なんてアレルヤに気を使うこと自体が無理だったのだと、ティエリアは考えた。
起きた時点で、ティエリアの腰には二本の腕――勿論アレルヤのものなのだが――がまとわりついていて、離れないのだ。初めこそ照れていたが、最近ではもう慣れた。アレルヤはボディタッチが好きな上に、ティエリアに甘えるのが好き。そして添い寝となれば、このアレルヤに抱き締められて眠る、というのは日常なのだ残念なことに。
「……って、残念ではない!何を諦めているんだティエリア・アーデ!こんな、こんな馬鹿に良いようにされるなどと、」
とか言ってはみるけれど、その腕を解こうとすれば、更に力が込められ、密着する。そして近付いた体温にどきりとしてティエリアの力が弱まる、の悪循環だ。はぁ、とティエリアは息を吐いた。
(もう諦めて、この馬鹿犬を起こそう)
そう考え直した。
アレルヤはそれほど寝起きが悪いわけではない、出来るだけ首を捻り、安心しきった表情のアレルヤに声をかける。
「アレルヤ…、おい、アレルヤ起きてくれ」
そして何度も呼ばない内に、アレルヤが小さく呻き声を漏らしながらぼんやりと目を細く開けた。
「アレルヤ、頼むから少し離してくれないか」
「んぅ〜…、ティ、エ、…なに?」
寝惚けているのか、いないのか。アレルヤがまた甘えるように首筋にぐいぐいと鼻先を押し付けてくる。ああもうそれは寝る前に沢山やっただろう、と呆れたくなった。