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□君が何も知らないみたいに笑うから
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アレ→ティエ恋人未満








ああ何でこんなとこにいるんだろう、とアレルヤはぼんやり思った。目の前には、扉。それも、ただの扉じゃない。この扉の向こうには、目下片想い中であるティエリア・アーデがいるのだ。
インターフォンに伸ばした指の先が震える。今の自分の心持ちを表す言葉なんて、どこにもない。例えて言うなら、幼子みたいにふかふかした毛布にくるまって、ベッドの上で身体を出来るだけ小さく硬くして、丸くなりたかった。胸の裏側が痛い。今から、我慢しなくちゃならないのだ。何をって、ティエリアにこの心内を打ち明けることを、だ。
ティエリアを見る度、好き、が膨れ上がる。怒りっぽいところ。無器用に笑うところ。静かに話すところ。時折、哀しそうにするところ。自分の信じる者だけを見ているところ。自分の身を顧みないところ。寂しいくせに強がるところ。あげればキリがないくらい好きなのに、好きって言っちゃいけない。その理由も、好きだからだ。だって、もしノーと返事を返されたら?傍にいられなくなる。こんなに好きで、傍にいたくて堪らないのに。
好きだから、言いたい。好きだから、言えない。この恋に、がんじがらめにされる。
インターフォンに、指が触れた。言い訳はばっちり、な筈だ。馬鹿みたいなものだけど。
地上降下の際、手違いでホテルの予約が取れていなかった。でも、雨が降ってきた。行く場所がない。だから、仕方がなくティエリアが滞在しているホテルのティエリアの部屋にやって来た。
そんな、嘘か本当か紙一重の嘘を並べれば、扉を開いたティエリアは、怪訝そうな顔をして、アレルヤを見上げた。

「君はつくづく馬鹿だな。…………………だが、嘘をつく必要性はないしな。まぁ、いい。中に入れ。見事に濡れ鼠だな。タオルくらいは貸してやる」

「う、うん。ありがと…ティエ、リア」

嘘をつく必要性なんて、数えきれないくらいあるよ、なんて言えなかった。好きだから、傍にいる為に嘘をつくんだ。
ティエリアは風呂場の乾燥機からタオルを出して、放って寄越す。それから、整理ダンスを開けて、固まる。一瞬だけ、アレルヤに視線を移した。

「あ…えっと、服は、なくても良いよ」

「…………」

ティエリアのサイズじゃ合わないから、とは言わない。ティエリアは既に不機嫌顔だ。でも、そこが可愛い。
それに、細いティエリアを腕の中にぎゅうって納めてしまうのが夢だから、ティエリアとは服のサイズなんて、違う方が良いに決まってる。
なんでも完璧にしたいらしいティエリアは、悔しそうだ。そのでかい図体を乾燥機に突っ込んでやりたい、なんて怖いことを呟かないで欲しい。

「………温かい飲み物でも入れてやる」

「本当?嬉しいな。ティエリアは気がきくね」

「………あたりまえだ」

ティエリアがほんの少し嬉しそうにして、キッチンにぱたぱたと向かう。飲める物が出てきたら良いなぁ、とぼんやり考えながら、他の人が押し掛けても、これだけしてくれるだろうか?ううん、部屋にも上げてくれない筈だ、なんて思ったりしてみる。そうだったら、とっても嬉しい。

「ああそうだアレルヤ」

「え?」

「飲むものを飲んだら、俺が君のホテルの手配をしてやる。お前はボケボケだから。感謝しろよ」

「…うん」

その言葉は、僕と君が親しい故に出る言葉なのか、それとも君は早く僕にここから出て行って欲しいのか、どちらなの。

そう聞く勇気さえ、出てこなかった。





君が何も知らないみたいに笑うから







――――――
当時かなり恋人未満な関係に萌えてました。が、難しい…。

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