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□夕暮れと引き算、それからキスと。
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「…知っていたか?俺とお前の身長差はちょうど15センチらしい」

「………」

何を言っているんだ、というみたいにティエリアのワイン色をした瞳が一瞬見開かれた。夕日よりもずっと、キレイだ。
実はこの情報も、ロックオンの言葉そのものだ。さも愉快そうにメディカルチェック後に言われたその言葉。当時はだからどうした、と思っていたのに。今では口に出しただけで心臓が潰れそうだ。そんな関係に、なれなかったから。

「…試してみるか?」

何を、とは言わないままに立ち上がって、ティエリアが座っている方のブランコの鎖を掴む。ティエリアを見下ろすだなんて、貴重な経験だ。
なぜかティエリアが小さく笑う。それだけで、鼓動が跳ねた。薄い桜色の形の良い唇が弧を描く。酷く魅力的だ。目の前がくらくらした。

「俺が座っていたら、15センチとか、関係なくなるだろう?」

その台詞がどういう意味を持ったものなのか謀りあぐねていれば、ティエリアが小さく首を振る。


「やめておこう。ロックオンの俗な話に俺達が付き合う必要はない。……それに、アレルヤが泣く」

「……そうだな」

「差し詰め、ロックオンに俺の反応を見てこいとか言われたのだろう?そんなもの鵜呑みにせず、一発殴ってやれ。馬鹿が治るかもしれない」

「……そうだな」

適当に相槌をうちつつ、一発殴られたくらいでこんな馬鹿な思考をしなくなるというのなら、是非殴って欲しいと思った。

(……アレルヤが泣く、か。)

静かに、ブランコの鎖から手を離す。そこで、背中から声が聞こえた。ロックオンだ。アレルヤもいる。公園の入り口にいる二人は、ブランコに座るティエリアを見て不思議そうな顔をしていた。
ティエリアが立ち上がる。そのまま真っ直ぐ、そう、止まって振り返ることもせずにアレルヤの元に歩いて行く。遅いぞ、そう言った。待っていた、と素直に言えばいいのに、と近付いてきたロックオンを見上げて思う。

ごめんね、とアレルヤがとろけるみたいな笑顔で言う。
ティエリアが恥ずかしそうに視線を反らした。それから、次からは走って来いだとか、俺より先に着いているのが基本だろうとか、無理なことを言っている。別にアレルヤ達も待ち合わせの時間に遅れたわけではないのだ。しかし、アレルヤは楽しそうにティエリアの手を取って君のために頑張るよ、と言う。
その姿はまるで、さっきの恋人同士みたいだと、ティエリアに教えてやりたい。そしたら、真っ赤になってアレルヤから離れるだろうから。
なんて。

「んー?どした、刹那。ぼぅっとしちゃって」

「………いや、少し嫌なことを考えてしまったな、と思って」

「はは、そりゃ夕暮れだからじゃないか?この時間は寂しくなるからなぁ、」

「そんなものか」

「そーそー」

だから馬鹿なこと考えちまっても仕方ないんだよ、そういうロックオンの言葉に安心するなんて、
馬鹿な考えは、本当に夕暮れのせいかもしれない。






夕暮れと引き算、それからキスと。



「そういえばアレルヤ、キスをするには15センチ差が一番良いらしいぞ」
「そうなの?うーん、僕あと5センチも背伸びるかな?」
「さぁな。20歳はもう年だから無理じゃないか?あとは縮むだけだろう」
「え!酷いよ!じゃあティエリアが5センチ縮んでくれれば良いじゃないか」
「それこそ無理だな。君の背を抜かす方が確率が高いな」
「えぇっ!もう…いいよ、身長の差がどんなでもティエリアは僕のキスを拒まないもんね?」
「……馬鹿」



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