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□君の全てが好きなんだ
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「んー、じゃあさ、ティエリアも一緒にアレルヤの家行こうぜ」

「え」

「は?」

いぶかしがるティエリアを、面白そうにロックオンが見ている。ティエリアが家に来るなんて、とアレルヤは頬が熱くなるのを感じた。

「ティエリアは来たことなかったよな?こいつの家に行くと美味い飯が食えるぜ。な、アレルヤも良いだろ」

「も、勿論だよ!ティエリアが来てくれるなら、大歓迎だ。ご飯、頑張って作るよ!」

ぐ、と両の拳を握り締めてティエリアを見上げれば、ティエリアの形の良い眉が下がる。そろそろ離せ、と足を掴んでいた手が振り払われた。
それから、「行ってやっても良い、」と小さく呟いた。桜色の小さな唇が弧を描いて、吸い込まれそうな黒い瞳がふわりと細められる。控え目に笑うその顔が、壮絶に綺麗だ。
好きだ、と思って、だから、強く口をつぐんだ。




「ロックオンはコーヒー、ティエリアは紅茶で良いんだよね。待ってて」

言って、階下に降りるために部屋を出る。正直言えば(ロックオンがいるとはいえ)ティエリアが自分の部屋にいるのを見ていられない。
だって、大好きで大好きで仕方ない子が自分の部屋にいるのだ。
馬鹿だと思う。部屋は、いつもの、殺風景だとハレルヤに言われる部屋と同じなのに。そこにティエリアがいるだけなのに。部屋の真ん中に立って、ティエリアが珍しそうに辺りを見回している。ブレザーを脱ぐ仕草でさえ、新鮮で堪らない。
誰よりも綺麗なティエリア。
強気なのに恥ずかしがりなティエリア。
他人にも自分にも厳しいティエリア。
きついことを言っても本当は優しいティエリア。

(君は、僕がティエリアを好きでいても許してくれると言ったけれど、)

でも、とアレルヤはティーカップの持ち手を持つ手に力を入れた。

「ミルクティーにしろ。シロップも入れろよ」




「ふわっ!……ティ、ティエ、ティ、…!!」

「いや、だからミルクティーだ」

「…う、うん」

いつの間に入ってきたのか、ティエリアが手元を覗き込んでいる。間近に見える紫の細い髪から良い匂いがした。

「弁当もそうだが、君は紅茶もコーヒーも入れられるのだな。……すごい」

「そ、そうかな?僕の家はハレルヤと二人きりだから、僕が家事をしなきゃなんだよね。
それに、料理は好きなんだ。だから、苦ではないんだよ」

「…両親は、と聞いても良いか?」

「ん?父が転勤でね。母もそれについて行ったんだ。で、ハレルヤが転校なんて面倒だ、って言ってね。でもハレルヤ一人じゃ心配だったから、僕も残ったんだ」

でも本当は、反対したのはハレルヤだけではない。ティエリアと仲良くなりたかったアレルヤも、今ここを離れるわけにはいかないと思ったのだ。あるいは、ハレルヤはそれを知っていたのかもしれない。ティエリアを思うアレルヤの心と、両親に我が儘を言えないアレルヤの心。どちらも。

「そうか。それでも、必要に迫られたからだとしても、ここまで出来るのは素晴らしいことだ。君の作るものには心がこもっている。ハレルヤが羨ましいな。」

「ティエリア…」

ティーポットにお湯を注ぎながら、ティエリアが言う。言葉は淡々としているし、表情は相変わらずの無表情だ。でも、分かる。ティエリアが優しいこと。ティエリアは決して嘘をつかないからこそ、嬉しい。

「ティエリア、君はどこに住んでるの?」

「俺は独り暮らしだ。…祖父の、マンションに。駅前のガラス張りのマンションを知っているか?」


「ぇ…知ってる!あそこに住んでるんだ。学校に凄く近いよね、良いなぁ。それにとっても綺麗」

「……来たいか?」

「え、」

「いや、何でも、」

「い、行きたい!行きたいよ!」

「そうか………買い物、してこいよ。何か作れ」

ふい、とティエリアが顔を背けて紅茶の満たされたティーカップを運ぶためにキッチンを出て行く。
ティエリアは、確実に近付こうとしてくれている。

「作る。作るよ、君の好きなものを、沢山」

ティエリアは、自分を好きな人間を嫌っていると言ったのに、アレルヤに慣れようとしてくれている。アレルヤを、嫌わないように努力してくれている。アレルヤのことを聞いて、自分のこと話して。距離を縮めようとしてくれている。
それなのに自分は、ティエリアに好かれる努力をしない。近付くことが怖い。もう嫌われたくない。

「ティエリア……すき、」

もう、君に伝えられないかもしれない。
だって、君には伝わらないと思うから。




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