よろず・くろ

□皿喰いと大喰い
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「あはっ、」



「あははっ、」




「ふふっ、きひ、うふふっ、」





路地に響くは女の声のみ。









『……随分と食い散らかすな』


「うふふ、ふふっ」


女に俺の声は聞こえてはいなかった。

つい先程、ほんの数分前、女の嚇子は俺を捕らえずに、
路地を通ろうとした運の悪い人間に向けられた。





「ああ、美味しかったわ」


女は満足そうに立ち上がり、俺を見た。


『もういいのか?残ってるぞ』

「ええ、貴方みたいに皿まで舐めるタイプでも無いの。」



女は自分の唇を血で染まった舌がちろりとなぞった。


僅かにぞくりとしたのを覚えている。



『皿まで……』


彼女から見たらそう見えるのかと、少し考え込んだ。





「次は無いわよ」





嚇眼が真っ直ぐに俺を捕らえて、
赤い血が付いた真っ赤な舌を這わせて、


「次は邪魔しないで頂戴ね。
でないと、

殺すから。

ふふっ、」




彼女はそう言った。





幾度目の戦慄を覚えた。




「さようなら。皿喰いのお兄さん」




血の匂いと一緒に香しい何かが鼻を掠めて、

彼女は夜に溶けた。






残ったのは残飯。


『…勿体無い、な』


事務的な感情で、彼女が食べたものの皿を食べ始めた。









一口、一口頬張る毎に彼女の恍惚とした顔が過る。

あんなに楽しそうに、美味しそうに食べるのを見るのは初めてだった。





程無くして皿を食べ終わると、足は自然と彼女が消えた夜に向かっていて。







彼女の残像を追いかけていた。





(あいつの名前何だろう、聞けばよかった)









こうして俺らは出会った、

血生臭い月の下で。










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