よろず・しろ

□雨降って、水溜まり
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しとしと、しとしと、
傘を濡らして、鞄に雨が当たらないようになるべく体の中心に寄せて、放課後の道のりを歩く。


ネルフへの直通バスが出ていればいいのに…とか思って約二年位。



慣れたからいいかと、ため息をつけば、いつの間にかネルフへのゲート入口に差し掛かっていた。



えーと、明日は休みだし、同時にパイロット訓練もあるから、機体の総最終点検か。

日付越えそう…


まあ、整備班は万年人手不足だし、早い内から経験を積めると思えば、
苦にはならない。



傘を折り畳み、水を切って束ねた。









□雨降って、水溜まり□










重苦しい入口に設置されているパスゲートにカードを通して、
鉄の扉が二つに割れ上下にそれぞれ動き通路が現れる。



『……あれ?』



見えるのは何時もの通路と、その中心に佇む少女がいた。



『レイさん!』

「………」

『今晩はっ』


幾つかあるパスゲートの内、俺とレイさんは偶然にも同じレーンにいる為、
通るには、どちらかが避けなければいけない。

決まりは無いが出る方優先というのが俺の中にあるので、
レーンから数歩下がり脇に寄って、
手を振り
、お先にどうぞと言った。



「………」


レイさんは静かにレーンを歩く。
距離は大体10メートル程。

近付くレイさんに話しかける。



『パイロット訓練でしたか?』

「……いいえ。」


予定が急遽変更になったのだろうかと言う疑問を解消する為に質問した。

レイさんの否定で自分の予定に変わりがない事に少し安堵した。


『そうですか。』


もしパイロット訓練が今日にずれ込んだのであれば、自分は今すぐにでも現場に待機しなければ行けないからだ。



『訓練じゃなくてもお疲れ様です。明日宜しくお願いしますね』


きっと何かをしていてネルフに出勤していたのだろう、
労いの言葉を言うと目の前まできたレイさんが立ち止まり、顔を向けて、
目があった。




「…お疲れ、様?」

『はい。仕事帰りですよね?だから、お疲れ様です』



首を少し傾げるレイさんに再び労いの言葉をかける。

あまり言われないかな。整備班では言うんだけども。



「仕事帰り……私は何もしていないわ」

『ん?じゃあ何でネルフから出て来たんですか?』

「それは、……別に」


『?』



目線を反らして俯いて喋らなくなってし
まったレイさんは何か言おうとしているように見えた。

何か変な事聞いたかな………



『あ、別に深い意味があって言ったわけじゃないんで気にしないで下さい。
すみません、帰るのに引き留めちゃって。』



お詫びの意味も込めて礼をすると、


「…大丈夫。」

レイさんから気にしていないといった意味の言葉をかけられた。



『そうですか、良かったです。』


自然と笑みが出て、笑うと再びレイさんと目が合った。




あまり周りでは見ない、
青い髪に赤い目で透き通るような白い肌。


皆は、彼女に良い言葉はかけないし、彼女も否定というか何も言わない。

最初彼女を見た時は、綺麗な人だなって素直に思った。
近寄りがたい気もしていたけれど、大人達の一部が言う、

“人形みたい”

それが無性に腹立たしくなった。




それから、
ネルフ内でも学校でも見かければ、挨拶をするようにした。

最初は全く反応してくれなかったけれど、
徐々に俺の目を見てくれるようになって、たまに挨拶を返してくれるようになった。

それが嬉しくて一言二言話し掛けて、段々とそれにも返事が貰えるようになったのがつい最近。

普通じゃないか、


普通の同い年の女の子じゃないかと思った。


赤木博士には、ぽつりと“良く出来たわね”と言われた時は思わず、

“普通です!”と大きな声が出た事に自分でも驚き、赤木博士にはひたすら謝った。
近くで見ていた葛城さんには何故か肩を組まれた。










『あ、』

「………?」


ある事を思い出して、つい声が出た。
レイさんが不思議そうにこちらを見ている。



『レイさん、外雨降ってますけど傘は持ってますか?』

見た所レイさんの荷物は学校鞄しかない。


「いいえ、必要ないわ」

淡々とした口調でレイさんは答えた。


『駄目です!』

「え、」

『濡れたら風邪引きますよ。持っていないなら俺の傘貸しますから使って下さい』




傘の柄をレイさんの前に突きだす、

「……それは、命令?」

『命令?いや、お願いなんですけど』

「お願い……」



俺の言葉を繰り返すとレイさんは考え事をするかのように黙ってしまった。

ふと、腕時計を確認すると集合時間が迫っていた事に気付き、慌てた。


『やばっ、時間っ』


慌てて、パスゲートを渡ろうと思ったが直前のやり取りを完了させようと、
無理矢理レイさんに傘を渡した。

『と、とりあえず。傘持って行って下さい!要らないならここ入口に置いていっていいんでっ』


レイさんの手をとって傘の柄を握らせた。



『それじゃ、また明日っ』




レイさんが傘を握ったのを確認して
踵を返して、急いで地下へのエレベーターまで掛けた、

飛び乗ったエレベーターの扉が閉まる寸前に、
レイさんが傘を持って外まで向かう姿が見えて、

きっと使ってくれるんだろうと確信に似た気持ちと、

押し付けたようで悪い事をしたかなと思いが同時に起きて、

次に、というか明日の訓練の時に聞いてみようと考えれば

本日何度目かの笑みが溢れた。








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