よろず・しろ
□君だから
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見慣れた後ろ姿を見れば、自然と歩みよっていた。
□君だから□
「………」
階段に座る人の後ろにゆっくりと近付いて、どう声をかけようか思案していたら、
振り向かれて先に声をかけられた。
『出雲さん。こんにちは』
「…もう夕方よ」
『じゃあ、こんばんは。』
「…はぁ。」
ため息を一つ落として、
全く顔筋を使わない奴の隣に腰かけた。
石階段が少し冷たい。
『?』
「なに…?」
『今日は学校も祓魔塾休みだろ、寮に帰らないのか?』
「あんたには関係ない」
『…そうか。』
合わさっていた顔は、外れて。
シロは最初と変わらず前を見た。
いつもの淡々とした表情で。
“無表情で格好いい!”って言っていたのは、確かクラスの女子だ。
同い年位に見えるけれど、生徒じゃない。
特例祓魔師。で、悪魔。
理事長の身内って胡散臭い位置付けで、学園内の至る所に出没する。
私から見れば体のいい、理事長の子飼いだ。
「………」
横目でシロの尻尾を見れば、さっきまでゆらゆらしていたのが、
心なしか項垂れているように見えた。
今度は横目でなく、ちゃんと顔を見た。
(無表情……ね。)
「さっきは関係ないとか言って悪かったわよ」
『?』
「あんな一言でしょぼくれてんじゃないわよ!」
つい語尾が強くなって、やけに声が響いてしまった。
響いた声が建物に反射して、自分に返ってくると、
途端に何だか恥ずかしくなった。
居たたまれなくなるけど、この場を離れる気にもなれずに、
膝を抱えて、シロから目線を外してひたすら前を見た。
『出雲さん?』
名前を呼んだって知るもんか、
向いてやるもんか。
『………』
沈黙が痛い、っていうかシロ絶対こっち見てる。
「………」
『………出雲さん』
向いてやるもんか。
「…何してんのよ」
『こっち見ないかなと。』
思わずシロの方を振り向くと、
頭を撫でる手が止まった。
『別に気にしてないのに、出雲さんは優しいな』
「んなっ!」
撫でる手が再開して、その感触が伝わる度に自分の顔がどんどん赤くなっていった。
『おお、夕焼けと同じ色だ』
「う、嬉しそうにしてんじゃないわよ」
『してない、してない』
「このっ、」
殴ってやろうかと思って拳を握ったが、
シロがあまりにも嬉しそうな顔するから、
(他人が見たら無表情だと言うのだろうけど)
そんな気も失せて、私も手を伸ばしてシロの頬をつまんだ。
『?』
「あんたは、もっと顔の筋肉使いなさい。無表情って言われてるわよ」
ぐにぐにと、頬を弄る。うう、悔しいけど柔らかい。
『ひゃれに?』
「クラスの女子よ。」
『………いひゅもひゃんが、』
「え?」
咄嗟に手を離してしまった、
『出雲さんが、そう思ってないなら、いいや』
「ーーーーっ!」
本当に無表情だなんて、どうしてそう思うんだろう。
ちゃんとシロは笑えるのに、
こんなにいっぱい表情が出てるのに。
『出雲さん、陽も落ちるし寮まで送る』
頬から離した私の手をシロは持って立ち上がった。
軽く引かれるのにつられて私も一緒に立った。
自然と手を引かれ、階段を一段降りる度に、
揺れる、
体も心も、
赤く沈む夕陽に照らされて揺れる彼の白い髪はとても綺麗だった。
そして、私が手を繋がれているのに気付くのは夕陽が落ちた後。
勿論、叫んだのは言うまでもない。
終