よろず・くろ

□それはきっと幻聴だ
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「ねぇ、エヴァ。人間は凄いね」

そうあいつは言った。
別荘の広場をクルクルと踊るように、

背丈は私と同じ。その小さな体を使って、回り飛び跳ねて、たまにチラリと私を見る


「人間は、強いね」


何を見て言葉を発しているのだろうか

何を見て
何を思い

こいつは、人間を羨ましいと思うのだろうか

そして、元人間である私に話すのだろうか



擬似的な月光が奴を照らす。人間でないもの、それが絶対的な私達は何を思うのだろうか

私達はどこに存在しているのだろうか




足場がなくなる、あの感覚は誰に理解して貰いたいのか


「エヴァ、」

奴の声が、私を貫いた。
飛び跳ねるのを止め、月光を背後に私の前に立っていた。



「人間は、愛おしいね」


何故か、私には奴の言葉は心に届かなかった。
その代わり、目の前にいる奴がとても、

とても

奴が愛おしく思えて、思わず抱きしめていた


その悲しい瞳を見るのが嫌だったのか、顔を見るのが嫌だったのか

私と同じ、同族に同情したのか



奴の手が、私の髪をすく。

「エヴァは暖かいね。」


きっと、私にはこいつが理解出来ないだろう。
私がこいつの愛おしい元人
間である限り。

同じ場に立てないことに気付いた私はほんのわずかに、でも確かに涙を流した。





僅かに、私の耳には振動が届いた。きっとそれは交差しない。そう思うとまた涙が出た。

気のせいならよかった。何もかも。幻ならよかった。









「大好きだよ、エヴァ」

(それはきっと幻聴だ)


そうしないと私の心は迷子になる。





END

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