よろず・くろ

□薄氷
1ページ/2ページ

「トーカさん!」


あいつの叫ぶ声が聞こえて、
そして、

それから、











■薄氷■







「っちくしょう、」

路地裏の一角で蹲る喰種の少女が一人、
腕を抑えて痛みを紛らわすかのように唇を噛み締める。



クソ、クソっ、
最悪だ、最低だ、

同種からの攻撃といえど、自分が遅れをとるなんて有り得なかった。

いつもならば。



思えば学校行ってた時から、気分は最悪だった。


放課後に良く一緒に勉強するやつに呼び出されたと思ったら、

「俺、トーカさんが好きです。」


それに対する私の返事は速攻で、

「無理っ」


そのまま項垂れるそいつを置き去りにして、学校を出た。

まず先に言っておこう、そいつからの告白は今回が初めてじゃない。

そろそろ片手で足りない位だ。


初めて好きだと言われて、
嘲笑うかのように鼻で笑って無理だと答えた。

次にまた好きだと言われて、しつこいと言う言葉も添えて無理だと言った。
呆れたため息が出た。


その次は、言われる前に無理だと言い。言わせなかった。
物好き者な奴だなってどこかで思った。

もしかしたら、私と同じ喰種なのかと思って色々再確
認したが、
残念ながら人間だった。


………残念?何が?


4回目は、覚えていない。ただ、無理というのが何だか苦しくなった。


そして、最後の告白された今日。
もう回数が更新される事はなかった。





理由は単純明解。
そいつは死んだのだ。

私の目の前で、

私が食べて、
他の奴に食われて、
何だか他の奴が食べているのが無性に腹ただしく思って、
八つ裂きにした。


そいつを見れば、
少しだけ意識が残ってた。


「喰種の喧嘩に飛び込むからそんな事になんのよ、バーカ」


それでも、飛び込んで来て怪我して飛び散ったこいつの肉を食べなかったら、
死んでいたのは私だ。


「あんたの最後の言葉が私の名前とか、笑えない」


目の前で人が、顔見知りが死ぬというのに私は普段と変わらずに接する。

普通の人なら、どうするんだろ。


「笑えないって言ってんだろ。笑ってんじゃねえよ」

既に事切れたあいつは、笑ってた。

私の赤い赫眼を真っ直ぐ見て、




「………バーカ。」


あんたは私が無理と断った時に、何がって聞かなかった。

きっとあんたは、私が何に対して無理って言ってるか検討違いの事を考えていた
んだろうね。


いっつも、私がしんどい時に告白してきやがって、

正直、めっちゃウザかったよ。


でも、


もし私が人間だったら、なんて柄にもない位に心が動いたんだ。




「ごめん、ごめんっ、………ごめん、な」


どれだけ謝っても、

目の前の人間は、人間らしく死んでいるんだ、



これが最後だと何かに誓う、
人間を想うのは、
人間のために流すもの何てこれが最後だから。と。






せめて、名前くらい呼んでやれば良かったと、


後悔を積み重ねた私の目が赤みを増した気がした。











次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ