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□特別治療時間
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とある路地、漆黒を纏う長身の男が呟く。
「おやおや、とんでもない落し物もあるもんですねぇ」
その声は喜びに満ちていた。
●特別治療時間●
目の前には傷だらけの身体を休めるように地面に座り、壁に背を預け細く呼吸する男。
服は返り血と自分の血で赤く染まっていた。
前に立つ人物にゆっくりと重たい顔を持ち上げた。
「よォ…」
「こんばんわ、美堂くん」
逃げる体力もなく切札の邪眼も3回使ってしまい、ぼんやり見上げ微笑を漏らす蛮。
意識は既に朦朧としていた。
「お疲れのようですね」
「そりゃもう…って、おいっ」
唐突に来た浮遊感。
いつの間にか軽々と蛮を抱き上げていた赤屍。
「アナタはほんと軽いですね…さ、帰りましょう?」蛮の軽さに少し眉を潜めて呟く。背中と膝裏に腕を通して細い身体を支えながら歩き始める。
「何いってンだ、よ……」
色々と言いたいことが山ほどあるものの力残っておらずそこで意識を手放した。
「ゆっくりお休みなさい」
目を閉じ静かに呼吸する相手に微笑み浮かべる赤屍。呟きと同時に二人の姿はその場から消えた―…
『――ええ、大丈夫ですよ。はい、でわ』
遠くに聞こえる話声。
覚醒してない意識の中、ドアの隙間から漏れる明かりに視線を移した。
移すと同時に人影が明かりを遮り此方へと向かってくる。
携帯を閉じ近くの棚へと置き寝室のドアを開けて中に入る赤屍。
「おや、起こしてしまいましたか?」
ぼんやりと此方を見つめる相手ににこりと笑みを浮かべる。
自分に微笑み向ける人物を理解するのに数秒時間がかかった。
下は暗めのジーンズに上は白いシャツ。2個ほど襟元のボタン外し楽にした首元と作業しやすいように折られた袖。
「あか…ばね?」
落ちてくる前髪をかきあげながらベットサイドに置いた椅子へと腰かける赤屍にいつの間にか見入ってしまっていた。
暫くしてはっと今までのこと思い出し起き上がろうとするも、そっと額にあてられた手に遮られた。
「まだ熱ありますね…」
「…ここ、お前ン家?」
「はい、なので安心して下さい。銀次くんには私から詳細をお伝えしてますので大丈夫ですよ。快く任せてくださいましたし」
「アイツ後で覚えてろ…」
銀次のことを聞けば悪態つく蛮に赤屍はクスリと笑う。
「一様大きい傷は縫っておきましたので自然と治ると思います。右肩辺りに目立つ傷は意図的に握力を無くすために狙ったように見えたのですが…お知り合いですか?」
さすがドクターとつくだけあると思考巡らしながら蛮は視線を反らした。
「仕事の後始末してたらタイミング悪いことにうぜぇストーカーが出て来やがってな…」
「ほう、ストーカーですか?」
「おー超悪質のな」
「美堂くんは人気者ですね」
赤屍は楽しそうに笑み浮かべながら冷えたタオルを額に置いた。
気持ちよさそうに目を細める蛮。
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