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□腕
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インターホンをならしても音沙汰ない様子に寝ているのかと鍵を開け、静かに中に入り愛しい人の姿を探した。


ふと血の匂いが鼻を霞める。




「蛮…?」




眉を潜め辺り見回すも気配なく、扉が少し開いた寝室へと足を向けた。

扉の隙間から見えた相手の眠る顔。


居ることに安堵しつつ静かに中へと入りベッドに腰かけ、愛しげに頬に触れてキスを落とした。




「ただいま帰りました」





横髪を撫でながら蛮のどこか幼い寝顔を見つめ微笑むも、ふと血の臭いがまた鼻を掠める。

辿るように蛮の右手を握り軽く持ち上げれば長袖の下から赤が滲む包帯が見えた。




「……!これは…」






眉を潜めたまま袖をたくし上げ包帯をほどく。


露わになった痛々しい傷。





「蛮…」





傷口にそっと唇を寄せ舐めた。

とても優しく。

傷つけぬように。









「……ぁ」



ふと腕に走る不思議な感覚に瞼を持ち上げた。


「くろ…「蛮…!!」


弱々しく向けられた瞳。

深く暗い紫の瞳を見るや否や相手を抱き寄せた。






「貴方を一人にしてしまってすいません…」
「え…?」






思いもしなかった言動にただ呆然と瞬きを繰り返す蛮。



「貴方はいつも一人で背負いこんで傷ついてしまう…一人になると特に」






蛮は強くて、弱い。

一人になれば尚のこと。




そして、常に愛や人に怯えている。


無くすのが怖いと。

触れられるのが怖いと。






「蛮の全ては私のものです。無論貴方の心も」



その美しい瞳も

細い身体も

脆い硝子のような心も





全て。



「アンタが…汚れる」

赤屍の身体を退けたい筈が逆に背に回してしまう腕。




「構いませんよ。蛮と同じ色に染まるなら本望です」
「……俺がヤ‥だ。俺はいずれバケモンになっちまう…蔵人のことも忘れて堕ちちまうんだ。悪魔の腕に」
「堕ちる前に貴方の心臓を止めますよ。」




奇跡は無い


ならば安らかな眠りを


私と共に。








「蛮が死んだ時、私の死も想像できる」



優しく右腕の傷に口付け言葉を繋ぐ。



「死ぬ時も一緒です。貴方がいなければもはや生きる意味がない」
「くろ…と‥っ」

ゆっくり傷口を舐め上げる赤屍を止めようと名を呼ぶも痛みにピクリと身体震わした。





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