PARODY SS

□太陽と月に背いて
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外科を志望したのは優秀だったからだ。


人の死を見るためじゃない。




「急患ですッ!!織田先生ッ!!」

夜勤で手が空いているのは俺だけだった。まだ研修医を終えたばかりの、手術を一人でするのは無謀な、新人。

「腹部にパイプが貫通していますッ心停止、呼吸もありません!!」
「チッ!なんやソレ!!柴先生呼べ!俺じゃどうにもならん!」

自分にできうるかぎりをしようと手術台に急ぐ。患者の顔を見て、もっていたペンを落とした。

「親父…?…ぁ、あ?ああやっぱり、俺の、親父や。」

もう、心臓は完全に停止していた。





■太陽と月に背いて■





「仕事とアタシ、どっちが大事なのぉ?て言われてコイツなんて答えたと思う?」
「あ?織田またふられたんかぁ?」
「うるせーうるせー!柴先生、それ以上言うたら殴るで!」

食堂で栄養バランスのとれたまずいランチを食べながら同じ外科の柴先輩と、小児科医の浜田にからかわれていた。

「柴、織田はなんていったんだよ?」
「んー?ああ、コイツなぁ『仕事に決まってんやろ!人命かかってんやで!死ねぇ!』て言ったんだとよ。」
「…死ねは言ってないわ。」
「織田ぁ、そりゃ嘘でもお前って言わないとダメだぜ。女は言葉でいいんだからよ。」

浜田が偉そうにうどんをすすりながら説教する。
浜田は合理的なくせに、儲からない小児科医になった変わりもんだ。

「浜田の女どうした?」
「ああ、まだ続いてるよ。今短大のスタディーツアーでアメリカ行ってる。」
「へぇ、そら溜まるなぁ。」
「浜田様は織田と違って淡泊だから、裸の女が誘っても欲情しないんだよ。」
「まじ?!」
「……真面目な話、情欲って人間の生存の為の欲求の一つだけどさぁ、実際はないんじゃない?俺は押さえらんない欲求ってないもん。」

織田がその台詞に驚き、柴がにやりと笑った。

「そりゃ浜田、オメェ誰もスキじゃねーんだよ。」
「………そっかなぁ?」

ショックを受ける浜田をみて織田が冷やかすように笑う。

「織田、お前は浜田以上にやべぇんだよ。てか、笑ってねーで早く食え。」
「へぇへ。」



人をスキかキライかなら、簡単に二分できる。

ただ己は何か人として大事なもんがぬけてる。



ただ、もう、人の死をなんとも思わなくなった。
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