PARODY SS

□カノン
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T.見えない嘘



誰かに依存して生きるぐらいなら、死んだほうが楽だ。

だから俺から俺を見失って、これ以上。

お願いだから、依存させるな。





俺の親は警察のお偉いさんで、姉は検死官だ。
泉の兄の事件を隠蔽する事は造作もない。
すべてが片付いた後、秋丸が言った一言を、俺は後生大事に覚えていた。

『柴先生…もし俺を裏切るのなら、死んでからにしてくださいね?』

俺はその時、なんと答えたのだろう?







「柴先生、各階の患者はすべて移しました。あとは、榛名さんだけです。」
「そうか。秋丸には気付かれてないな?」
「はい。もともと患者のすくない病棟ですから…では、失礼します。」

頭を下げて立ち去ろうとする篠岡の、震えた声に少し笑いながら声をかける。

「篠岡、君がいてよかった。」

案の定、泣いていた篠岡は笑いながらもう一度頭を下げて扉をあける。
閉める前に、最後に、篠岡がまっすぐこちらを見た。

「それでも、私と生きてはくれないのですね。」


静かに音もなく扉が閉まり、篠岡の声だけが頭に響く。

秋丸のしたことを隠すのに、俺の両親のほかにもう一人協力者が必要だった。
篠岡がずっと俺に好意を示していたのを知り、利用した。

篠岡の、献身的な愛をみても、俺の心は秋丸に持っていかれたままだ。

秋丸との出会いは高校一年の、冬からだった。
同じ野球部で、当時は普通に接し、だが仲もよくはなかった。
孤児が周囲に知れ、秋丸はイジメの暴力にも甘んじていた。だがある日突然、立場が逆転した。

『おはよ、柴。』
『……シャツに血が。またやられたのか?』
『あぁ、うん。やられるのも飽きたから…少し、捻り潰してやった…』

その時の無邪気な笑顔に、堪らなく欲情した。






恵まれた家に育ったせいか、欲しいものは手に入るとすぐに飽きた。

秋丸の無邪気な残酷さを手に入れたい。彼の“そこだけ”が欲しい。

そのために彼を洗い浚い調べた。
弱みを見つけたかった。彼が傷つき、狂気を見せてほしかった。



だが彼は産まれた時から運命が定まっていた。
それに俺は関われない事を悟り、彼に飽きることがないことに喜んだ。


なぜなら、彼は一生、手に入らない。










『秋丸、お前を裏切る時は、共に死ぬ時だ。』






もはや、一辺の迷いも躊躇いも、なかった。
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