★×向日岳人A★
□あかずきん
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見つめて。
抱き締めて。
食べてしまいたい。
□■あかずきん□■
丸井と岳人が友達、そしてそれ以上の関係となった時、周りは驚いていた。
元々二人に特に接点はなかった。
ジローが熱心に丸井の魅力を語り、岳人に紹介したのがきっかけだった。
話してみれば意外と楽しく、なんだかんだで一緒にいるのが心地よかった。
ジローは紹介しなければ良かったと少しぼやいていたが、今では二人はすっかり公認の仲となっていた。
「お邪魔しまーす」
「あー…ごめんな、散らかってて」
今日は、岳人が丸井の家に遊びに来ていた。
弟は別のところに遊びに行っていていないのだが、部屋は散らかったままになっている。
「うわ…」
ある程度は覚悟していた岳人も、その散らかりっぷりには絶句してしまう。
片付けなければ、足の踏み場もないほどだった。
「…取り敢えず片付けようぜ?」
「あー…うん。悪ぃ」
寛ぐより先に、二人は部屋の片付けを始めた。
弟達が散らかしたせいか、玩具や絵本、クレヨンなど色々なものが散乱している。
「なぁ、こういうの使って遊んでやったりするワケ?」
「ん?ああ、当たり前だろぃ?お兄ちゃんだからな」
さも得意げに胸を張る丸井に、岳人は思わず吹き出した。
丸井本人が子供っぽいところがあるため、弟達の面倒を見ているところがイマイチ想像出来ない。
「へー…じゃあこんなの読んだりとか?」
岳人はたまたま側に置かれていた「あかずきんちゃん」の絵本を持ち上げて見せる。
お使いに行く女の子と狼の、誰でも知っている話だ。
「あー、それなら昨日も読んだぜ?あいつら好きでさー」
「へぇ…」
岳人は丸井が弟に絵本を読み聞かせているところを想像してみるが、どうしても思い付かず、思わず笑ってしまう。
「…何笑ってんだよ」
「いや、だってさ…」
「なんだよ…なら今読んで証明してやるよ」
「えっ?」
イマイチ信じていないらしい岳人に、丸井は今からやって見せてやると絵本を取り上げた。
床に散らかったものを適当に退けて、俯せに寝転がる。
岳人を隣に同じように寝転がらせ、目の前に絵本を広げる。
「えっ…マジでやんのかよ?」
「いいから黙って聞いてろって」
早速丸井は表紙をめくり、絵本を読み始めた。
内容は、やはり皆知っている通り、おばあさんの元にお使いに行く女の子のものだ。
確かに、丸井は読むのに慣れている感じだが、岳人にとっては退屈な時間でもあった。
「なんて大きなお目めなの?…お前の顔をよく見るためさ」
絵本はクライマックスに突入していた。
あかずきんちゃんが狼に食べられてしまうところだ。
「なんて大きなお手てなの?…お前をしっかり抱き締めるためさ」
ちゃんとあかずきんと狼の台詞ごとに声の調子を変えている。
これなら、幼い弟は夢中で聞くだろう。
「なんて大きなお口なの?…お前を…食べるためさ」
そして丸飲みにされてしまうあかずきん。
その後、猟師に助けられ、めでたしめでたし、というところまで行くと、丸井が勢いよく絵本を閉じた。
「あー…」
「?…どうした?」
「この狼さー…」
丸井の表情がなんとなく沈んでいる。
岳人が不思議そうに顔を覗き込むと、丸井は小さく舌打ちをした。
「どんだけあかずきんのこと好きなんだよ、って感じだよな」
「…はぁ?」
「だってさー、目も腕も口も…全部あかずきんのため、なんてさー」