★×向日岳人A★
□同位体
1ページ/2ページ
友達だと知っていた。
それでも、平静ではいられなかった。
□■同位体□■
丸井は、自分はそれほど嫉妬する方ではないと思っていた。
今まで、嫉妬するほど好きになった人もいなかったし、嫉妬しなければならないほど自信がないわけでもなかった。
だが、今付き合っている岳人が、忍足と一緒にいるのを見ると、どうしても平静ではいられなくなってしまう。
聞けば、いつも一緒にいるという。
ダブルスを組んでいるということもあるだろうが、それでも仲が良過ぎるように見える。
何度岳人に聞いてみても、答えは、ダブルスパートナーか友達ということで、それ以上のことは言われない。
出来るだけ気にしないようにしていたが、それでも沸き上がってくるこの苛立ちには勝てなかった。
「もう忍足には会うなよ」
「は?…なんでだよ」
久し振りのデートで、最初に告げた言葉はこれだった。
岳人は当然わけが判らないと首を傾げる。
「今日俺と約束してたのに…忍足といるってどーいうことだよ?」
丸井は見てしまったのだ。
待ち合わせ場所に来る直前まで、忍足と一緒にいた岳人の姿を。
「いや、侑士もこっちに用あるって言うし、ついでにって…」
「デートの待ち合わせに、普通は他の男と一緒に来ないだろぃ?」
あの時、丸井はどうしようもないほどの嫉妬を覚えたのだ。
それまで気にしないようにしてきていたのだが、それも我慢の限界だった。
どうしても許せないという気持ちが膨らんでいく。
「…今日はもう帰る。じゃあな」
せっかく待ち合わせたのに、丸井はさっさと帰ってしまった。
残された岳人は、ただ呆然とするだけだった。
***
数日後。
岳人は丸井の家まで来ていた。
先日のことを謝ろうと思ったのだ。
しかし、訪ねてはみたものの丸井の機嫌は悪いままだった。
「…で、どうなった?」
「えっと…一応、侑士に説明して、これからデートの日は一緒に行かないからって…」
「…それだけかよ?」
岳人から告げられた言葉に、丸井はただ溜息を吐くだけだ。
デートに一緒に来ないなんていうことは、約束なんかしなくても当然のことだと考えている。
「えっ…あ、……」
いかにも不機嫌な丸井に、岳人は戸惑ってしまう。
岳人にとって忍足は親友で、恋人である丸井とは全くの別物なのだ。