★×忍足侑士B★

□楽園
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逃げ出したい。
この狭い部屋から。
自由になるんだ。

□■楽園□■

忍足はずっと、この白くて狭い四角に区切られた部屋にいた。
身体をあまり柔らかくもないベッドに横たえ、何日も変わらない天井と変わり映えのない景色を眺めるばかりだ。
身体のどこが悪いのかは判らない。
ただ、ずっとこの狭い空間に閉じ込められて、出ることは許されなかった。
忍足にとっての世界はこの部屋だけだったが、それでもやはり外の広く自由な空間への憧れはしっかり持っていて、いつになったら出られるのだろうかとその日をずっと楽しみに待っていた。
しかし、そんな日はいつになっても訪れない。
身体がよくなっやたら出れると言われ続け、一体どれほどの時をここで過ごしてきたのだろうか。
外に出たい。
広い野原を駆け回りたい。
広い空に両手を伸ばしたい。
風を感じ、土に触れ、草を踏んで自然に触れたい。
それなのに、それだけの願いすら、いつ叶うのかは判らないのだ。
ただ、毎日を生きるというより過ごすだけの毎日。
どうしたら、この世界を出ることが出来るのか。
この世界から出る日は来るのか。
忍足は、毎日そればかりを考えていた。

***

跡部は、たまたま病院の近くを訪れていた。
近くにある親戚の家に来ていて、そこにいても退屈だからと抜け出してきていたのだった。
しかし、来た先はというと、一般人は立入禁止と言われている病院で、何もすることがなく、またただ来た道を帰るだけというところだった。

「はあ…、…ん?」

来ただけ無駄だったと溜息を吐いたところで、目の前の茂みがガサガサと音を立てた。
反射的に身構えるが、そこから出てきたのは、跡部とそう歳も変わらない少年だった。

「…お前…」

「あ…、…ここ、もしかして、病院の外なん?」

よく見るとその少年は、入院患者らしい白いパジャマに身を包んでおり、足元はスリッパだった。
つまりこの少年は、病院から抜け出してきたのだと、跡部には考えるまでもなく理解出来た。

「お前…いいのかよ?そんなカッコで出てきて」

「ん…ホンマはあかんって言われとるんやけど…」

跡部が尋ねると、少年は途端に表情を曇らせる。
一見すると、その少年は何故入院しているのか判らない。
ぱっと見たところでは何か怪我をしているわけではなく、顔色が取り立てて悪いということもない。
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