★×跡部景吾A★
□星空下で
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二人はその星空に圧倒されるように呆然と、暫くそのまま上を眺めていた。
「景ちゃん、一緒に温泉行かへん?」
「…はぁ?」
□■星空の下で□■
いつも忍足は唐突に何か物事を決める。
今日もそれは例外ではなかった。
「なんなんだよ…いきなり温泉って」
「ええとこ見つけたんや。景ちゃんと一緒に行きたいなぁ思て」
忍足はいそいそと鞄からパンフレットを取り出して見せる。
跡部は気怠げにそちらの方に視線を向けた。
「ほら、これや。良さそうやない?」
忍足が見せてきたパンフレットには雰囲気の良さそうな旅館の全景、センスのいい部屋、広い温泉に美味しそうな食事の写真が掲載されていた。
「へぇ…なかなか良さそうじゃねぇか」
「せやろ?…で、一緒に行ってくれるか?」
「ああ、いいぜ」
「ホンマに?ほな予約しとくな」
忍足は嬉しそうに笑うと早速携帯を取り出して旅館に予約を取り出した。
跡部は我が儘を聞いてもらった子供のようにはしゃぐ忍足を小さく笑みを浮かべていた。
口にはしないが、跡部もかなり喜んでいた。
***
そしていよいよ、旅行当日になった。
忍足と跡部は一緒に電車に乗って目的地に向かう。
「景ちゃんと旅行なんてめっちゃ嬉しいわー」
「そうか?…ま、俺もたまにはいいと思うぜ」
跡部は素直にはなれないが内心かなり喜んでいた。
忍足もそれが判っていて嬉しそうだった。
そのうちに目当ての駅に到着すると二人は連れ立って電車を降り、敢えてタクシーなどは使わず歩いて町並みを見ながらゆっくり旅館に向かった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。お部屋はこちらになります」
旅館に着くとすぐに予約していた部屋に案内された。
忍足が奮発した御蔭で、そこは離れのようになっていて、部屋には専用の露天風呂が付いている。
「お食事は後ほどお部屋にお持ち致します。何かありましたら内線の方でご連絡下さい」
「あ、はい。どーも…」
「では、ごゆっくり」
これで二人は部屋に二人きりになった。
落ち着いた雰囲気の旅館で窓の外の景色もとても美しかった。
「いいとこだな」
「せやろ?いつか一緒に来たいと思っとったんよ」
忍足は気に入ってくれたらしい跡部の様子を見てホッと一息吐いた。
実は、跡部に気に入ってもらえるかどうか、かなり不安に思っていた。
跡部は海外旅行などにも何度も行っていて、今更温泉に連れていったところで喜んでもらえないのでは…と内心不安で堪らなかった。
「…そういえば二人で旅行って初めてだな」
「せやな…まぁ学校も部活もあるし、なかなか機会もあらへんかったからなぁ」
忍足は跡部に言われてやっと気付いたように相槌をうち、この後どうするべきかを頭の中で綿密にシュミレーションした。
何故そこまで、とも思うかもしれないが、相手があの跡部ではそれも仕方がないことだった。
もし機嫌でも損ねてしまったら夜中だろうと一人で帰ってしまうかもしれない。
幸い、今は機嫌もいいので問題ないが、この後も細心の注意を以て行動しなければならない。
「今日はもうゆっくりしような。買い物とかは明日でいいだろ」
「せやな。駅からけっこう歩いたし…今日は思ったより疲れたわ」
二人でゆっくり部屋で寛いでいると、暫くして食事が運ばれてきた。
季節の食材をふんだんに使い、見た目も美しく味も申し分なかった。
「なかなか美味いじゃねぇか」
「せやな。景ちゃんが美味いなんて滅多に言わへんのに」
食事は跡部も舌鼓を打つほどのもので、二人とも大満足だった。
食事が終わる頃には外はすっかり陽が沈んで暗くなっていた。
「もう星が見えるんやな。…なぁ景ちゃん、一緒に温泉入らへん?」
「ん…ああ、そうだな」
忍足にしてみれば多少は下心があったのだが、跡部は旅先で気が緩んでいるのか機嫌がいいのか、文句も言わずに頷いた。
部屋に備え付けの温泉とはいえ、それは広く綺麗で、二人で入っても決して狭くはなかった。
「気持ちええなー…」
「ん、そうだな…」
二人でゆったりと温泉に浸かりながら空を見上げてみると、そこには普段見ることも出来ないほどたくさんの美しく光り輝く星が見えた。
「すごいな…こんなに見えるなんて」
「ホンマや…いつもは全然見えへんのに」