★×忍足侑士B★
□うさぎりんご
2ページ/2ページ
忍足は小さな果物ナイフを使い、それの皮を器用に剥いていく。
するすると薄く剥かれていくそれに、ジローは感動したように目を輝かせた。
「ほら、食べれるか?」
まず半分だけ皮を剥いて切ったものを、ジローの前に並べる。
甘くみずみずしいそれを、ジローは美味しそうに頬張っていく。
「ん…美味C…」
「ん、なら良かったわ」
思ったより食欲はあるようだ。
熱で身体が火照っているせいか、冷たく水分の多いりんごが美味しく感じるらしい。
残り半分も剥いてしまおうと思ったところで、忍足の手がぴたりと止まる。
「…ほら、ジロー。見てみ?」
「え?…あ、うさぎ」
忍足が見せたりんごは、皮を耳に見立てたうさぎりんごになっていた。
それほど珍しくはないが、それだけでジローは嬉しそうに表情を綻ばせる。
「すっげー…やっぱ忍足器用だよね」
「こんなんでええんやったら、いつでもやったるで?」
普通に剥いたりんごも、うさぎりんごも、全てジローが美味しそうに頬張っていき、あっと言う間に全部食べ切ってしまった。
「ごちそうさま」
「ん、食べたらもう1回寝とり」
枕元に置いてあった苦そうな薬も、ジローは文句を言わずにしっかりと飲み下した。
意識もはっきりしていて、この分ならば本当にすぐに治りそうだ。
「…忍足」
「ん?」
「俺が寝るまでそこにいて?」
そう言って忍足の指を握るジローの掌はほんのりと熱を持っている。
「ん、ええよ。ここに居るからな」
「ありがと…」
ジローは嬉しそうにふわりと笑うと、忍足の指を離さないままそっと目を伏せた。
忍足は片手でやりにくいながらも濡れタオルをジローの額に乗せてやった。
暫くその様子を見ていると、ジローはすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。
「…ジロー?」
小さく名前を呼んでみるも、ジローは眠ってしまったのか返事はない。
握った手の力も少し緩み、そっと手を離すと、そろそろ片付けなければと静かに支度を始める。
「…またな、ジロー」
そして、そのまま帰るのも躊躇われたのか、いつもより熱く赤い唇に本当に軽い口付けを落とす。
ジローの唇からは、ほんのりとりんごの味がした。
そして、翌日になり元気に登校してきたジローに、忍足はまた優しいキスをすることになる。
□■END□■