★×忍足侑士B★

□うさぎりんご
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忍足は小さな果物ナイフを使い、それの皮を器用に剥いていく。
するすると薄く剥かれていくそれに、ジローは感動したように目を輝かせた。

「ほら、食べれるか?」

まず半分だけ皮を剥いて切ったものを、ジローの前に並べる。
甘くみずみずしいそれを、ジローは美味しそうに頬張っていく。

「ん…美味C…」

「ん、なら良かったわ」

思ったより食欲はあるようだ。
熱で身体が火照っているせいか、冷たく水分の多いりんごが美味しく感じるらしい。
残り半分も剥いてしまおうと思ったところで、忍足の手がぴたりと止まる。

「…ほら、ジロー。見てみ?」

「え?…あ、うさぎ」

忍足が見せたりんごは、皮を耳に見立てたうさぎりんごになっていた。
それほど珍しくはないが、それだけでジローは嬉しそうに表情を綻ばせる。

「すっげー…やっぱ忍足器用だよね」

「こんなんでええんやったら、いつでもやったるで?」

普通に剥いたりんごも、うさぎりんごも、全てジローが美味しそうに頬張っていき、あっと言う間に全部食べ切ってしまった。

「ごちそうさま」

「ん、食べたらもう1回寝とり」

枕元に置いてあった苦そうな薬も、ジローは文句を言わずにしっかりと飲み下した。
意識もはっきりしていて、この分ならば本当にすぐに治りそうだ。

「…忍足」

「ん?」

「俺が寝るまでそこにいて?」

そう言って忍足の指を握るジローの掌はほんのりと熱を持っている。

「ん、ええよ。ここに居るからな」

「ありがと…」

ジローは嬉しそうにふわりと笑うと、忍足の指を離さないままそっと目を伏せた。
忍足は片手でやりにくいながらも濡れタオルをジローの額に乗せてやった。
暫くその様子を見ていると、ジローはすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。

「…ジロー?」

小さく名前を呼んでみるも、ジローは眠ってしまったのか返事はない。
握った手の力も少し緩み、そっと手を離すと、そろそろ片付けなければと静かに支度を始める。

「…またな、ジロー」

そして、そのまま帰るのも躊躇われたのか、いつもより熱く赤い唇に本当に軽い口付けを落とす。
ジローの唇からは、ほんのりとりんごの味がした。

そして、翌日になり元気に登校してきたジローに、忍足はまた優しいキスをすることになる。

□■END□■
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