★×向日岳人A★

□桜の樹の下には
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「…お前、転校生?」

「あ、自己紹介してへんかったな。俺は忍足侑士。ここには中等部から来ることになったんよ」

「ふーん…俺は向日岳人。よろしくな」

それが、岳人と忍足の出会いだった。
偶然なのか運命なのか、二人は同じクラスだった。
更に部活も同じとなると、二人の距離は自然と縮まっていった。
そうして、いつの間にか、岳人は忍足のことを好きになっていったのだった。

***

「岳人!」

「あ…侑士」

「こんなとこで何しとるん?跡部が呼んどるで?」

「ああ…うん、すぐ行く」

今は新入生が体験入部する時期で、テニス部も当然忙しい。
その中で、レギュラーともなれば尚更、新入生達を見なければならない。
跡部は部長として、余計に忙しいのだろう。
岳人は呼びに来た忍足と一緒に、小走りで部室に向かう。
その途中も、やはり桜が気になり、何度も背後を振り返っていた。
ずっと見ていても、そう目に見えた変化があるわけではないのは、岳人にも十分判っている。
それでも、もし自分が見ていないうちに何かあったらと思うと、空いている時間はずっと眺めていないと気が済まないのだ。

「…岳人、あの桜好きやんな?」

「え?…あー、うん。まあ」

あの桜を好きな理由は、忍足にも関係している。
しかし岳人は、わざわざそれを言ったことはない。
言ってみて、忍足がなんとも思っていなかったらと思うと、怖くて言えないのだ。

「俺もあの桜好きやねん。…判ると思うけどな」

「え…?」

忍足も桜を見上げて目を細めている。
2年の春、この桜の下で、岳人は忍足に告白したのだ。
ひらひらと舞う桜の花びらが勇気を与えてくれたようにも感じた。
一生懸命に絞り出した告白に、忍足が頷いた時、岳人はこの上なく嬉しかった。
そのことを、忍足も覚えていてくれたというのだろうか。

「この桜があったから…岳人と付き合えとるんかなって思うんよ」

「侑士…」

忍足の言葉に、岳人は嬉しさを抑え切れず勢いよく抱き着いた。
跡部が早く来いと言っていたのも、もう忘れてしまったかのようだった。

「この桜…元気になってくれたらええな」

「うん。…絶対、元気になるよな」

根拠はない。
だが、この大切な思い出の桜が、そんなに簡単になくなるはずはない。

「来年もまた、一緒にこの桜見ような」

桜もそれに応えるように、その綺麗な花びらを散らした。

□■END□■
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