★×跡部景吾A★

□全部
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最近の俺は欲張りで。
こんなのじゃ満足出来なくなってる。
そんなのただの我が儘だって判ってる。
忍足は俺をセフレとしか見ていないことも知ってる。
繋がっているのは身体だけだって判ってる。
判ってるのに。

足りない。

心が、欲しい。

「忍足…っ」

「ん?」

言葉が続かない。
言うな。
言ってどうする?
言って嫌われるかもしれない。
嫌われたら、もうこの唯一の繋がりすら失ってしまうのに。
やめろ、やめるんだ。

心の中でもう一人の俺が叫ぶ。

欲しい。
忍足の心が。
忍足の全部が。
身体だけじゃ足りない。
満足出来ない。
全部欲しい。

もう、どっちを信じていいのか判らない。

「…泣いとるん?」

「……え…」

忍足に言われて初めて気がついた。
俺、泣いて…?

止まれ…止まれよ。
こんな…欝陶しいと思われたらどうするんだ。
嫌われたくないんだ。
泣き止めよ。

だけどそんな心とは裏腹に涙は止まらない。

「忍足…っ俺…!」

もう止まれない。
戻れない。

たとえ結果が最悪だったとしても、後悔なんて、絶対しない。

「好き…だ。身体だけじゃない。全部好きだ」

声が震えたのが判った。
ちゃんと言えたのか?
どこか間違っていないか?
ちゃんと伝わったか?

「…………」

忍足は変な顔して俺を見てる。
やっぱりダメか。
もう身体も…重ねられなくなるのか。
でも…後悔しないと決めたから。
最後くらい笑顔を見せてやれよ。

「俺、帰るから。今まで、有難う」

「ちょぉ待てや!」

早くこの場から立ち去りたかった。
しかしそれを忍足に引き止められて、胸がどきんと高鳴った。
期待なんかしない方がいいのに。
期待すれば期待した分だけショックは大きいのに。

「あんな、俺…」

忍足の声。
まだ優しいまま。

「俺はお前のこと…」

段々…声が小さくなっていく。







「好きや。全部」






光が見えた。
長い長いトンネルの中、暗い闇に一人置き去りにされて泣いていた気がする。
今の一言はそこに光を差し込んでくれた。
そんな気がする。

「好き…や。ホントは、初めから…好きやった…」

「ホント…に?」

バカみたいに嬉しかった。
また涙が溢れた。

「俺は…付き合い方言うんを知らんかったから…」

間違っていると判っていても、それしか出来なかったのだと忍足は言った。
俺も何も知らなかった。
だから、とにかく嫌われないようにと、そう思っていた。





「俺の身体も心も、最初からお前のものだった」

全てを捧げた。
だから。








「お前の身体も心も俺のものになって」





END
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