題心

□題
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「失いたくないと願ってしまうよ」



「亘ぅ、さっきからどうしたんだよー?」

 小村克美こと、カッちゃんが相変わらずのしゃがれ声で声をかけてくる。

「んー……消しゴム失くしちゃったんだ」

 言いながら、亘は椅子を後ろに引いて机の下を探した。
 カッちゃんの言う“さっきから”というのは、亘が授業の終盤辺りから消しゴムが無いことに気付いて、筆箱の中や机の上など思い当たるところを手当たり次第探していた頃からのことだろう。

「消しゴムー? この辺で失くしたのかよ?」

「んー……多分」

「家に忘れてきたとかじゃないのかぁ?」

 カッちゃんも机の下を覗き込む。どうやら一緒に探してくれようとしているようだ。
 しばらく二人で探してみたものの、消しゴムは見つけられなかった。

「あ、俺確か消しゴム二個持ってたから一個貸そうか?」

 思いついたようにカッちゃんが言う。

「いいよ」

「だって次の時間って写生だろ? 消しゴム使うじゃん」

「んー……いい」

「……そんなに大事な消しゴムなのかよ?」

 亘のかたくなな様子にカッちゃんは口を尖らせる。
 自分でも何でそんなに必至になって探しているのかよく分からない。
 消しゴムが見つかるまで、別の消しゴムを借りて使えばそれでいい話なのに。
 それなのに、そうしたくない。だって――

「代わりなんてないんだ」

 お父さんも。

 友達も。

 世界も。


――失いたくないと願ってしまうよ。








2007.10.25
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