題心
□題
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「ただ一人の愛するヒトを 守って」BS原作+映画にて
旅の途中、宿屋に泊まってワタルとミーナとキ・キーマとで川の字になって寝ることになった。
キ・キーマは横になってすぐに眠ってしまったが、ワタルとミーナはなかなか寝付けずにいた。
部屋の窓から差し込む月明かりの中、寝ているキ・キーマを起こさない程度の小声で2人で色々な話をしていたときのことだった。
「家族って、すごいね」
ワタルはそう言って微笑んだ。
その笑顔が痛々しくて、ミーナは涙が出そうになる。
ミーナが幼い頃、強盗に襲われたときのことを話したあとのことだった。
「ベッドの下に隠れていなさい」と言い聞かされたこと。
「父さん母さんが呼びに来るまでは決して出てきてはいけない」と厳しく諭されたこと。
幼い自分にはただただ怖くて分からなかったけれど、あれは両親がミーナを守ってくれたのだと今では痛いほどよく分かる。
――家族って、すごいね。
そう言ったワタルの家族は離れ離れになってしまったという。それを元通りに戻すために、ワタルは幻界に来た。
それなのに。
家族ってすごい、なんて言葉を笑顔で言う彼の強さが痛々しい。
「うん……すごいね」
相槌を打ったけど、うまく笑えているかは分からない。
「すごいよ。大切な家族のために自分を犠牲にするなんて……」
僕にはできるかな、とワタルはつぶやいた。
わたしにはできるかな、とミーナも心の中でつぶやいてみる。
――わたしが幼くなかったら、もっと強かったら、あのとき家族を守ることができていた?
事件のことを知って物心ついてからずっと、自分自身に向けてきた問いを重ねて投げかけてみる。
埃臭いベッドの下の空間。足音。争う声。
幼い頃の記憶の断片が浮かぶ。
――できないよ。
心が萎んで胸がぎゅっと苦しくなる。
怖い、と思ってしまう。
空中ブランコでうんと高いところも平気なくせに。
「ミーナにはきっとできるだろうなぁ」
「……え?」
ワタルのつぶやいた言葉に、驚くと同時にミーナは自分の耳を疑ってしまう。
――わたしにはできる……?
「どうして……?」
「だってさ、ミーナは家族を探すためにこれまでだって色々頑張ってきたでしょう? 方法は……ちょっと違ってたかもしれないけど。でもそれは、ミーナが家族のことを想う気持ちがそれだけ強かったってことなんだよね。大切なヒトのためなら――」
ワタルがそこまで言いかけて、はっとした表情をする。
「どうしたの?」
「あ……うん。大切なヒトのためなら何でもできる……。これ、前にミツルが同じようなことを言っていたんだ。願いを叶えるためなら何でもできるんだ、って」
ワタルは何かを思い返すように遠い目をした。
「ミツルは、妹を生き返らせたくて幻界に来たんだ。最初は、何であんなにひどいことができるんだろうって思っていたけど、今、何となく分かったような気がする……。」
ワタルはそう言ってミーナを見る。
「きっと、ミーナみたいに大切なヒトを思う気持ちがそれだけ強かったってことなんだね。大切なヒトを守れなかったから、今、大切なヒトを取り戻そうとしてるんだ」
ミーナはワタルの言葉を噛み締めるようにうなずいた。
「そうね。そうかもしれない。大切なヒトのためなら何でもできるって思う気持ちも分からなくないわ。でもそれが正しい方法か正しくない方法かは別問題だけど」
ワタルもミーナの言葉に相槌を打つ。
「なんでこんな目に遭うんだって運命の女神様をうらむくらいみんなそれぞれ大変なことがあったけど、今こうやってみんな生きてて、大切な仲間や友達に会えて、本当に良かったって思うよ」
ミーナも同感だった。小さい頃の自分にこんなに大切な仲間ができるからって聞かせてやりたいくらい嬉しかった。
「それじゃあ、愛すべき仲間に乾杯だな」
その言葉とともに、カツーンと小気味良い音がした。
「うわぁ!」
ワタルの短い悲鳴が響く。
暗がりでも夜目の利くミーナは何が起きたのか目を見張った。
見ると、大口を開けて寝ていたはずのキ・キーマがいつの間にか起きている。
カツンという音はどうやらハイランダーの腕輪が鳴った音だった。
「ビックリしたぁー」
「キ・キーマ! いつから起きてたの?」
ワタルとミーナが口々に言うのを見てにかっと笑ってキ・キーマは答えた。
「もちろん2人の身の上話からだ。大切な仲間を仲間外れにすると後が怖いんだぞ〜」
俺の身の上話を語る番だな、とキ・キーマはあごの下に手を当てて何を話そうか考える仕草をする。
「悪かったよ、キ・キーマ。でももう外が明るくなってきたから明日にしようよ」
「もう遅いから寝ましょう」
ワタルとミーナの言葉は空しく、朝の光に溶けていった。
2007.10.25UP
2014.8.31修正