題心

□題
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「知らない内に始まりを迎え気付いた時には全てが終わりを迎えているような 結末に」BS原作にて




 シン・スンシは青く澄んだ空を見上げる。
 手を伸ばしても届かない、遠い遠い空。
 数日前まで、赤い星が瞬いていたその方角を、彼は苦い思いで眺めていた。
 手にはその思いの素となった星読みの友人から届いた手紙を握り締めていた。
 手紙の内容は、ルルドにいる星読みの間で内々に広まっている噂についてだった。

 ハルネラの人柱は幻界から一人、現世から一人選ばれる。
 千年目には現世から訪れる旅人は二人。
 今回は幼い子供たちが来たらしい、と。
 それはハイランダーと魔導士だったらしい、と。

 その噂の出所は分からない。
 しかし、それはシン・スンシに少なからずの衝撃を与えた。
 嘆きの沼のほとりで出会った少年はハイランダーだった。
 その彼に、ハルネラについて語ったことがあった。
 手紙を読んだ今、そのときのことを思い返すと、シン・スンシは気が塞いだ。
 いたたまれなくなって、星読みの観測小屋へ戻ろうとしたときだった。
 道行く男が声をかけてきた。

「星読みさんよ、明日の天気はどうだ? ハルネラも終わったし、明日から休んでいた仕事を再開しようと思っているんだが」

 それは星読みの格好をしていればそうそう珍しくもないやり取りだった。

「そうですねぇ……この調子だと、明日からしばらくは晴れますよ」

 シン・スンシは抜けるような青空を見上げ、答えた。

「晴れるのか、そりゃあ良かった。さすが、星読みだな。何でも知っている」

「そんな褒められたものじゃないです。僕は……知らないままに、酷いことを言ってしまっていたんですから」

「あぁ? 星読みでも知らないなんてことがあるのか?」

「ええ……悔しながら。僕たちの知らないところで、いつの間にか始まっていて、いつの間にか終わっていることがこの世界にはある。 ……本当に、悔しいですよ」

 知っていたら何とか出来ていたかも知れない。
 けれど、例え知っていたからといって、何かが出来たとは思えない。
 自分が蚊帳の外にいたからこそ語って聞かせることが出来た話。
 覚えこんだ知識をなぞるように語って聞かせた話。
 それが相手にとってどういった影響を及ぼし得るのかを知らずに。

 だから。


「晴れてくれなきゃ、気が滅入ります」


――そんな、知らない内に始まりを迎え気付いた時には全てが終わりを迎えているような結末に。






(もしシン・スンシがその事実を知ったとしたら…のお話。)


2007.10.25
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