短篇集

□バレンタインデー
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手渡された箱をそのまま家内に渡して、父親は再び新聞に目を向けた。テーブルに付された椅子を引き、座る音が二つ。そして、少女の「いただきまあす」という間延びした声が響いた。毎朝、変わらぬ情景である。

 カチャカチャと食器同士が当たる音に集中力も切れたか、父も箸を手に取った。すると、それを見計らった様に娘が口を開く。

「お父さんって、若い頃にモテたの?」

「んん?」

おや、ませた娘だ──と少女に目を向ける父親。しかし、返答したのは母だった。

「お父さんがモテたわけないじゃない。モテたなら、何で三十路まで独り身だったのか説明が付かないじゃないの」

「はは、手厳しいな」

笑いながらも、大黒柱は懐かしい記憶に目を伏せた。
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