ニンゲンヨウキャク

□義務と権利
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 義務がある限り、権利がある。同様に、権利があるから義務がある。同じ様に、規則には必ず穴がある。

「いい加減、身を固めたらどうなの和樹」
沢庵を箸で摘み、口の中に放り込む。ぽり、と小気味よい音が顎の辺りで響いた。
「ん、まず相手いないからなー」
大学を卒業して、すんなり金融機関に就職した。勤めてから、三年が経つのかとぼんやり思う。
「ほら、あんたの同級生の西郷くんだってそろそろ結婚するかもしれないとか言ってたじゃない。あんたもね、早く結婚して孫の顔を見せてよ。お父さんだって、いつ死んもおかしくないんだからね」
「それなら、俺は早く嫁の顔が見たいよ」
夕飯時になると、すぐにこの話題だ。しかも、俺と歳が近い芸能人が結婚したニュースが放送されれば説教は色濃くなる。やはり、社宅に入るべきだっただろうか。
「もう、この子は屁理屈ばっかり。お父さんも、何か言ってやって下さいな」
「そうだぞ。和樹、孫の顔を見せて早く安心させてくれ。孫の顔を見せる事は、子供の義務なんだからな」
「はいはい」
鯵の開きを箸で突きながら、空返事をする。
「お前の歳には、父さんと母さんは結婚していたんだから」
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