落陽

□一
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 朝、食堂でお二人はスウプを召し上がっておりました。お二人共、上品に匙で掬ってお飲みになっておりました。私は、その様な画になるお二人を見ていると、思わずほうと溜息をついてしまうのでした。
「あ」
と幽かな声を雅彦様がお挙げになったので、私はスウプに髪の毛でも入れてしまったのでしょうかと不安になりました。俊彦様も、訝しげに雅彦様を見ておりました。
「いや、何でもない」
その後も、お二人は何事も無く朝食をお済ませになりました。

 私はとある御屋敷の女中として、仕えておりました。名前は、イチと申します。父の賭博癖が直らず、私はこの御屋敷に奉公させて頂いているのです。しかし、この御屋敷の女中も私一人となってしまいました。何故なら、旦那様の家業が失敗してしまったからで御座います。嗚呼、この様な事を人に話してしまっても良いのでしょうか。いえ、貴方だからこそ話せるのかもしれません。あまり時間を取らせようなどと、目論むわけでは御座いません。どうか、そのままお聞き下さい。

「イチさん、万年筆のインキの換えは無かったかい」
「はい、雅彦様。ここに御座います」
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