落陽

□二
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 旦那様の家業、というのは料亭旅館の経営で御座いました。しかし、西洋式の流行によりホテルに客を奪われておしまいになったのです。旦那様と奥様は、借金の返済に奔走されておりました。それは、あまりにも母の姿に似ておいででしたので、私は少しばかり目頭が熱う御座いました。

「全く、朝から騒がしいな。俺は、未だ眠いというのに……」
「親父も御袋も、大変なのだ。ぼく達がその様な事を言って、どうするのだ」
同じ顔ながら、お二人の仰る事は正反対で御座いました。
「はっ、女中も一人にしやがって。散々の贅沢がこの様だ、俺達を見て笑えよイチ」
「俊彦、いい加減にしないか。イチさん、気にしなくて良いから」
「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす──か」
「俊彦」
眉間に皺を寄せる雅彦様のお顔を見るのは、とても苦しい事でした。今日の俊彦様は乱雑に朝食を御済ませになり、特別注文された御召し物に着替えて御屋敷を飛び出して行かれたのでした。

 不幸、と言ったら宜しいのでしょうか。私にはさっぱり学が無いので、表現する事すら出来ません。ただ、私は崩壊を見ている事しか出来ずにおりました。
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