落陽

□三
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 私はいけないという事を承知で、それを読んでしまったのです。いえ、雅彦様は怜悧な御方ですから、その様な事になるのは御存知だったのかもしれません。


 朝、大學へ行かれる前に雅彦様は仰いました。
「イチさん、ぼくが帰る前に部屋を少し片付けておいてくれないか。昨夜から探し物が見付からなくて、散らかしてしまったのだ」
「あ、はい、承知致しました」

 私は、知ってしまったのです。

 イチさん、君はこれを読んでから大層驚く事だろう。しかし、それでも許して欲しい。恋に上下の差別なし、と言うだろう。ぼくは、イチさんを愛して止まないのだ。これは、中途半端な気持ちではない。思えば、初めて会った時から君を愛しく感じていた。けれど、ぼくは借金の為に良家の子女に婿として入る事になってしまった。薄薄、それは解っていた。何しろ、ぼくは唯でさえ次男という立場なのだ。出来れば、この家で君を奥として迎えたかった。今はそれも叶わないが、だから君さえ良ければ待っていて欲しい。いつか、借金は全て返済する。そして、ぼくは稼ぐ。稼いで稼いで、一生君と何不自由なく暮らす。
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