落陽

□四
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 拝啓 お母様
枯れ葉舞う季節、

「駄目だわ」
私は便箋をくしゃりと丸め、屑籠に入れました。もう、お母様に合わせる顔も無いのだわと考えると、自然と涙が零れました。雅彦様から頂いた指輪も、見付かる事はありませんでした。私には、もう何も残っていないのだわ。俊彦様も借金の返済が滞り無く進みそうな事が確認されると、一層遊びは激しくなる一方でした。

 そうして、一通の手紙が届いたのでした。



 拝啓 浦風イチ様
初霜の候、如何お過ごしでしょうか。皆様、恙無くお過ごしでしょうか。小生は日々の生活にも慣れ、患いも無く過ごしている次第です。耳にした話ではありますが、借金の返済が順調だそうですね。小生も安心しております。あの頃は毎日家計も火の車で、不安ばかりを抱え暮らしていましたね。もし、イチさんが良ければの話だが綾部家の女中として働きに来ませんか。勿論、借金を返済し終わって元通りの生活を送れる様になったらで構いません。小生は、それを待ちます。いえ、待てます。
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