落陽

□七
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 大金を握らされても、私には行く当てなどありません。取り敢えずは、手頃な田舎の貸家に住む事にしました。毎日の忙しさが、嘘の様でした。毎日、何をする事も無く黙々と暮らしておりました。大家も近所の方も、皆さんが優しくして下さいましたし、もう何にも患う事が無いのだと考えると逆に落ち着くのでした。そして、女が一人で生きる事も出来る世を深く噛み締めました。

 そんな風に、私が違う生活に慣れてきた頃でした。

「ちょいと、イチさん。あんた、どこへ行っていたのさ」
「え、買い物に……」
「そんな事は良いのよ、あんたのおっかさんが亡くなったって電報が入ったの」
大家は大声で捲くし立てる反面、私は呆然とその場に立ち尽くしておりました。

「暫く、あんたの居所が解らないってね。聞いているのかい」
解らないのは、私の方です。とうとう、私は本当に独りになったのだと思うと体が上手く動きませんでした。嗚呼、例え母に泣かれたとしても早く手紙を書くのだった。何故、私は……。
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