落陽

□八
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「やあ、おはようイチさん」
「雅彦様……、ここは……」
「全く、君は何を言い出すのかと思ったら」

 どうやら、私はすっかり眠っていた様でした。寝台の近くの出窓からは風が吹き込み、薄い絹の窓掛けが翻っておりました。そして、その向こうには海が見えました。雅彦様は、ずっと私の髪を撫でていらっしゃった様でした。

 そう。私は全てを御捨てになった雅彦様と、海辺の一軒家で暮らし始めて半年になります。自殺を計った私を貸家から連れ出し、何もかもを捨てて一緒になられたのでした。

「どんな夢を見ていたのだろうね、ぼくは出てきたのかな」
雅彦様は、随分と昔の雰囲気に近くなっておりました。きっと、気負う物が無くなったのでしょうと勝手な推測をしておりました。ただ、私達のいなくなった場所がどうなったのかは気になりますが。

 私は、慌てて寝台から降りました。
「申し訳ありません、今すぐ」
「今すぐ、何をしようと言うのかい」
「あ、あの、炊事でも……」
「構わないよ、今日はぼくが代わろう」
雅彦様は、私の髪に接吻をしながら仰いました。
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