吸血鬼と魔女の話
□03.
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「こんにちは──いえ、こんばんはの方が正しいでしょうか」
今日は、自宅で栽培している薔薇の花束を手渡した。市販の物ばかりを食べていると、飽きてしまうと聞いたからだ。
「今日は、レコードも持って来たのですよ」
長年使っていないと解るレコードプレイヤーに息を吹き掛けると、自然に積まれた埃が空気中に舞う。咳き込みながらも、レコードを置いて針を落とした。
すると、ジジジジジ……という雑音の後に三拍子が流れる。
「……モーリス・ラヴェルか」
「ええ、たまには良かれと思いまして」
音楽というのは、脳に良いと聞いた事があった。アルツハイマーにも効くと良いのだが、と淡い期待を抱いてわざわざ持って来たのだ。
「立て」
レコードプレイヤーの微調整をする為に、座って作業をしていたが、吸血鬼である彼は横に立って「立て」と繰り返す。
「未だ、安定するまで様子を見なければ」と言おうとしたが、手首を掴まれて、そのまま椅子から立たされた。
「な、何を……」
もしや、何か思い出したのかと顔を上げる。しかし、それは期待外れの考えだった。
「ワルツなのだろう、共に踊れ。それとも、我輩一人に踊らせる気か」