短篇集

□文系男と理系女
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 彼女は恐らく、辛い恋をしている。恋愛事程、第三者から見て解りやすいものは無い。解る分だけ感情移入しやすく、ぼくは苛々していた。

 そもそも、K大の文壇サークル「新進気鋭」に理学部の女がいる事。それは、誰が見ても明らかに違和感を抱くだろう。しかも、三年もの間に誰とも打ち解けず、年に数回だけ発行される冊子には必ず参加している。しかも、短い詩を一本だけ載せる。深読みをすれば恋愛をテーマにしているのかもしれないが、それは稚拙で平淡で誰の目にも留まらない様な、流し読み用とも言える詩。

 今日、黙っている事は美徳では無い。

長机に並べられた頁を、順に重ねて取っていく。A5サイズで、全百頁近くと妙に厚い事が「新進気鋭」の特徴だ。

「恋に焦がれて鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす」

年明けに発行する冊子の為に集められた幹部であるぼくは、彼女と二人で黙々と作業する中、聞こえるか聞こえないか微妙な声でぼそりと呟いた。聞こえなかったのなら、別にそれはそれで良かったのだ。

「……え?」

「君ね、サークル長の事が好きなんだろ」

「な、何をいきなり」

耳まで真っ赤にするだけで答える様子は無かったが、この反応で確信を得た。
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