2668回目の秋




 俺と冬が出会わない様に、お前と春も決して出会わない。そもそも、お前と春では気性が違い過ぎる──。

 わたしには、彼が何を言っているのか理解出来なかった。夏と冬は正反対だから、出会わないという意味も解る。だが、わたしと彼女に何の差があるというのだろう。秋と春に、何の違いがあるという。人々が過ごしやすい陽気、楽しめる視覚効果、始まりと終わりの交錯。まるで、わたし達に違いは無い。違いが有りすぎるのは、夏の彼と冬の彼女の方だろう。

「お前の番だろ、秋」
「あ、はい」
気性の激しい彼らに挟まれて、わたしは春に焦がれていた。春は暖かくて優しい、と人々から聞いている。逢いたい、春に逢いたい。一体、どんな性格なのだろう。暖かくて優しい、誰からも愛される春。麗らかな名前の響きに、わたしはいつも心を蕩かせていた。

 暑苦しい彼と寒々しい彼女は出会った事が無いのに、いつも互いを聞いただけの話のみでけなし合っている。彼は、わたしを起こす際にも容赦が無い。目覚めた瞬間、鼻先に拳があった時は正直驚いた。それに、彼の横暴は毎年段々と酷くなっていくと聞く。何とも、不憫な話ではないか。人々に、謝らねばならない日も近いだろう。ただ煽るばかりで、後を濁したままの彼は本当に困り者である。彼女は彼女で、なかなか目覚めない。眠らせる存在である彼女の寝起きが良かったら、それもそれで違和感があるけれども。その携えた催眠の鐘を鳴らし、生物を殺す事さえある。何ら、彼らに変わりは無い。彼らに何か違いがあるとすれば、温度差だけであろう。

 それならば、何故わたしは春に会えない?

 春、わたしとは違い過ぎる春。夏、わたしを目覚めさせる為にやってくる夏。冬、わたしが起こしてやらなければならない冬。

 わたしは、オルゴールのネジを巻く。夏のほとぼりを冷まし、冬へと繋ぐ為に。木葉を紅や黄色に染め、地に落とす。そして、太陽の眠りを誘うのだ。ゆるりと、寝かせてあげよう。まだまだ、夜明けは遠い。段々と、光は遅くなり速くなる。人々から、明かりを奪うのだ。

 そうして、2668回目のわたしは過ぎ去ってゆくのだ。2669回目まで、お別れしよう──。

 さあ、人民よ生物よ彼女の鐘を聴け──。





《終》


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