嫌夏の男




 夏生まれだから、夏生とは我が親ながら安直で単純で愚案だと思う。しかも、生まれる前から女だと思っていたせいで読みは「ナツキ」だし。どんだけ、大胆なんだ。全く、毎回勘違いされて面倒臭いにも程がある。

 ちなみに、俺は夏が嫌いだ。いや、夏だって俺の事を好きでは無いかもしれないけど。それより夏は暑いし、夏休みがある。夏休みがあるという事は必然的に、夏休みの宿題がある。夏休みの宿題なんて、爆発すれば良いのに。それに、虫も凄いし。蜂なんかに刺されてみろよ、アナフィラキシーショックで死ぬし。蚊に刺されたって痒くて苦しむんだから、半端無くね? カブトムシとかクワガタとかで喜ぶ子供を見ると、「裏側とか見てみ、超リアルだし」とか言ってやりたいし。っていうか、虫とか無理だし。

 それに、夏休みにはプールや海に遊びに行くのが定番だ。そして、俺は苦しくも湘南ボーイというやつである。家を出てから、5分も歩けば海へと到着。日に焼けた色黒のサーファー達がサーフボードを持って、夏を謳歌しながら闊歩しているのだ。波に乗ったり、流行りに乗ったり、女に乗……言い過ぎましたごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 とにかく、色白で細身の俺には打つ手も無い。しかも、俺は極度の金づちである。大学生になった今でも風呂で溺れる事はしばしば、子供用のプールでも溺れるし、終いには沖縄の海でも溺れた事がある。同級生は、泳いでいた魚を捕まえていたけど。良いから、笑うな。俺が行きたくも無い沖縄に行ったのは、高校生の頃だった。当時は、北海道と沖縄の二択だったが多数決で押し負ける結果となった。っていうかさ、北海道に行きたいだろ並々に。飯は美味いし、涼しいし、それだけで良くね? 沖縄とか、方言有り得ないし解んないし知らないから。飯とか、あ……ぎゃあッ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 なんか、もう、今年は登山ルックで稚児ヶ淵とか行かね?

※※※


「……どうよ、大原夏生作『夏なんて大嫌い』。勢いに任せたわりには、なかなか良くね?」
うん、これで現代文学論の宿題であるエッセイは完璧だ。「原稿用紙三枚以内で、夏をテーマにエッセイを書け」なんて、俺の為にある宿題じゃないか。
しかし、同じゼミの奴に突っ込まれる。
「それにしては、お前の彼女琉球人じゃん」
「………」

(了)






[戻る]


[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ