サヴァ小説1

□青い瞳と青い空
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そしてまた時間が過ぎていった。
女子部屋の窓から見える空は、灰色のどんよりとした厚い雲に覆われ、すっかり本格的な雨が降り出していた。

メノリ「…早く止むとよいのだが…」

この天気の中、森を歩き回っている皆を思い、メノリは気遣う眼で表を見やる。

ルナの額からハンカチをはずして、桶の水に浸した。
ギュっと絞ると、また熱のとれない額にのせた。

メノリ「…氷でもあればいいのに…。つらいな…、ルナ」

ルナの瞼が揺れて、眩しそうに目を開けた。

ルナ「…雨…?」

虚ろな目線を泳がせて、隣のベッドに腰掛けて見下ろしているメノリを見つめた。

メノリ「ああ…。今日、出発していたら降られていた…。延期してよかった…」
ルナ「…シャアラは…?」
メノリ「薬草をとりに行った…」

瞼が重く、ルナは目を伏せた。
メノリの静かな口調が心地よく、話す内容がボンヤリした頭では理解しにくかった。

メノリ「…あんなシャアラを見たのははじめてだ…。お前を助けたくて、必死なんだろう…」
ルナ(…シャアラが…、助けたくて…?)

ルナはうっすらとまた目を開けた。

メノリ「…いいものだな…、友達というのは…」

優しい笑みを、メノリは浮かべた。
ルナの目には、いつか見たメノリの母のヴィジョンと同じ笑顔に見えた。

ルナ(…優しそうで綺麗なメノリのお母さん…。…友達…。…シャアラ…)

ルナは目を伏せると、また深い眠りに引き込まれていった。

くじけそうになりながら、ケガを負いながらも、ルナのため必死になっているシャアラを知らずに。


雨は降り続けていた。
メノリは降り続ける雨をベッドに腰掛けながら見つめていた。

コンコン。

壁を軽く叩く音に、ハッと振り返ると、ベルとシンゴがびしょ濡れで立っていた。

メノリ「…おかえり。どうだった…?」

メノリはベッドから立ち上がり、二人のもとへと向かう。

シンゴ「うん、バッチリ」
ベル「これから火を熾して用意するよ」

ベルはメノリからルナへと目線を向けた。

ベル「ルナは…どうだい…?」
メノリ「…さっき吐いたのだが、今は落ちついて眠っている。熱は下がってはいないようだ」

三人が口を閉じると、ルナの荒い息遣いが聞こえてきた。

シンゴ「…苦しそうだね」
ベル「…早くかかろう。行こう、シンゴ」
メノリ「二人も火を熾したら、濡れてない上着に着替えた方がいいな…。今日は肌寒いし、風邪を引く…」

二人は頷き、下へと降りていった。


大いなる木の下の、茂った葉が傘となり、雨が落ちてこないスペースで石を組んで炉を作り、
薪を用意して火を熾すと、ベルとシンゴはメノリの言う通りに着ていたシャツを脱いでリビングに干した。
そして長袖の上着に着替えると、また焚き火のもとに戻った。


ベル「あっ、カオル、おかえり」
シンゴ「あっ、おかえりーっ」
カオル「…ああ…」

雨の中、カオルがちょうど戻ってきたところであった。

シンゴ「見事にビショビショだね!」
カオル「泥で汚れたから、川で洗ってきた」

その手には魚をぶら下げていた。

ベル「…後はオレがしておくよ。カオルも服を着替えた方がいい」
カオル「…着替える…?」

二人の姿にカオルは気づき、考え込んだ。

シンゴ「風邪引くといけないからって、メノリが」

カオルはベルに魚を渡し、家へ入っていった。


コンコン。
またも女子部屋の入り口の壁をノックする音に、メノリは振り返る。

メノリ「…カオル…」
カオル「…ルナはどうだ…?」
メノリ「…眠ってる。…お前も風邪を引かないよう、体を拭いて着替えておけ」
カオル「…ああ。…卵…、リビングのテーブルの上に置いておく」

メノリから目線をルナへと移し、眠っている様子を確認するとカオルは男子部屋へと向かった。

静かにしているせいか、いつもは気にならない靴音が聞こえる。
リビング、そして男子部屋へと、その足音が移動していく。

カオル「…ちっ、長袖の上着で来ればよかった」

舌打ちしてボヤくカオルの小さな独り言もハッキリ聞き取れて、思わずメノリは苦笑いを浮かべた。

メノリ「着替えたのは、リビングに皆干してるぞ」

メノリのそんなに大きくない声に、今度は「はぁー…」とため息が聞こえた。
メノリはそれが妙におかしくて、肩を揺らし声を殺して笑った。
そしてルナの額の上のハンカチをとると、桶の水ですすいで絞り、またのせた。

メノリ「…もうぬるいな、かえてくるか」

立ち上がり、リビングへ出た。
そこではちょうどカオルがTシャツを干しているところであった。

メノリ「うっ!?ぷっ」
カオル「…笑うな…!」

怪訝そうに振り返ったカオルは、いつもは着ていない袖のないジャケットだけを着ていたのだ。
さすがにチャックは首もとまで上げてあった。

メノリ「wwwワイルドだな」
カオル「〜…うるさい」

いつもはしない着方に、カオルは恥ずかしそうにムスっと顔を歪めていた。
メノリはおかしさを押し込んで告げる。

メノリ「…カオル。悪いがちょっとルナを看ていてくれるか?」

メノリは新しい水をケースから桶に注ぐと、それをカオルに渡した。

メノリ「私は夕食の用意をしてくる。風も出てきたことだし、奥の部屋の方がお前も冷えないだろう」

いつもより露出の多いカオルの姿に、メノリは苦笑いを浮かべ、下へと降りていった。
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