サヴァ小説1

□忘れ去りたい記憶
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家作りをはじめて一週間。
メノリの筋肉痛も治まり、一緒に作業をするようになった。
以前の彼女には見られなかったものが、あの日以来多く見られるようになった。

シャアラ「メノリ…、ずいぶん優しい顔になったよね」

ルナとシャアラは『大いなる木』の広場で木を切っていた。
屋根が出来上がり、テーブルが出来上がり、今日はベッドに使う木を切っていた。

シャアラ「あんなメノリ、学園では見たことなかった…。笑顔っていいね…こんな暮らしでも…楽しくなれるもの」
ルナ「そうだね」

二人は木をはさんで向かい合い、ノコギリを引き合っていた。
ギコギコと音が辺りに響く。

シャアラ「…笑わない人は…まだいるけど…」
ルナ「うん?」

シャアラのつぶやきに、ルナが目線を上げようとした時、ちょうどガコっと木は二つに分かれた。
二人はようやく切り終えて、深いため息をつく。

シャアラ「…でも、ケンカするより、ずっといいよね」
ルナ「言えてるっ」

アハハとルナは明るく笑い、シャアラもつられて笑い声を上げた。

二人が作業している広場には、二人以外に誰もいなかった。
ベルとカオルはベッドに使う木を切り出しに森へ行っていて、メノリとシンゴ、そしてチャコは食料探し。
ハワードは頑固に釣りを主張して、釣り竿を片手に出掛けたままだ。

シャアラ「どうしてハワードとシンゴはあんなに言い合うのかしら、毎日、毎日」

二人が顔を合わせると、必ずと言っていいほどで、シャアラは思い出してため息をつく。

ルナ「案外、楽しんでやってるかもよ。男の子同士だし、ケンカだってあるわよ」
シャアラ「…そうかな…?」
ルナ「大丈夫よ。皆、仲良くやっていけるわよ。さっ、シャアラ、次のところをやろう」

そうルナに促されて、近くの木の切り落としにとりかかった。


一方、まっすぐに伸びたベッド向きの木を探して、ベルとカオルは森の中を行く。

カオル「うん?」

木立ちの向こうに人影をとらえ、カオルはピタリと動きを止める。

カオル(何をしている…?)

ベルは歩みを止めたカオルに気づき、近くにやってきた。

ベル「どうしたんだい?いいのが見つかったのかい?」

眉を寄せて遠くを見るカオルの横顔が、急にガクリと頭を落とし、ゲンナリした顔となってベルを振り返った。
もの言いたげに一瞬唇を開くが、すぐに引き結んで歪めると、その場を離れていった。

ベル「えっ?何かあったの?」

カオルの意味不明な行動に、ベルはカオルが見ていた方向をのぞく。
10mほど茂みの向こうに、金色の頭が見えた。

ベル「…ハワード? 何しゃがんで…………ぅ!」

ベルはあわてて見るのをやめて、先に行ってしまったカオルを追った。
そして並んで歩く。

カオル「…次に作るもの決まったな…」
ベル「うん、急いで作らないとね」

二人の意見は一致していた。
見るのも、そして見られるのも嫌だったからだ。


そして日が暮れて夕食のひととき。

「トイレーっ!?」

提案したベルとカオル以外の者の声が上がる。

ベル「うん。明日からはじめようと思ってるんだ」
チャコ「それよか、柵の強化が先やろ〜?」
シンゴ「壁もまだ完成してないのに?」

ベッドもまだ人数分完成していないというのに、突如上がったトイレ作成にチャコとシンゴは不満そうな声を上げた。

ベル「壁は、ベッド用の枠を搬入するのに、まだ塞げないんだ。…それにトイレはいるよね?」
シャアラ「う、うん。あると助かる。ねっ?ルナ」

シャアラはこくこくと頷くと、ルナへ同意を求める顔を向けた。

ルナ「そ、そうね。うっかり見られたら困るもんね、確かに…」

茂みにしゃがんでキョロキョロしている姿は、出来れば人には見られたくない姿なのだ。

ハワード「お〜、絶対必要だぜ。何せボクは、この前シンゴが用を足してるところに出くわしてしまったからなァ」

イヒヒヒとシンゴへ流し目を送りながら笑うハワードに、シンゴは顔色を変えてイスから立ち上がった。

シンゴ「ふわっ!?な、内緒にしろって言ったのに!ハワード!!」

シンゴのあわてぶりに可笑しそうにハワードは話を続ける。

ハワード「『後ろに大トカゲが居るぞーっ!!』って言ったらさ、シンゴの奴、真っ青になって…、ズボンを下ろしたまま飛び出してきたんだぜ〜!」

(…悪人…)

皆は、シンゴを哀れに思って心の中で呟いた。

シンゴ「ああーっ!もう言わないでーーーーっ!!」
ルナ「そうよ、ハワード、もうやめてよっ!ひどすぎよ」
シャアラ「そんなイジワルやめてよぉ」

皆の非難の目つきに、ハワードはほくそ笑む。

ハワード「あんな目立つところで用を足してるシンゴが悪いのさ」
カオル「…お前も目立ってたぞ…」

突如届いた呟きに、ハワードはもちろん、一番端の席に座るカオルを、皆は一斉に振り返る。

ハワード「な、何の話だ?」
カオル「…聞きたいのか…?」

ハワードは、カオルの低く静かな声音に思わずゴクリと喉を鳴らした。

シンゴ「ボク、聞きたい!」

片手を高く掲げて、シンゴが声を張る。

ハワード「何言ってんだ!このチビ!」
シンゴ「人の話をするくせに、自分の話はしないってズルイよっ!」

二人は、歯を剥き出して睨み合う。

メノリ「シンゴの話は正しい」

そこに冷静なメノリの声が割って入り、一瞬で静まった。

メノリ「…では、カオル。話を続けてくれ」
カオル「………」

話を促されて、カオルはもちろん、他の者も動きを止めた。

「ふっ」

その静まりを、ルナの笑い声が破る。

ルナ「やっ、やだ、メノリっ。そんな風に言ったら、カオルがかえって話しづらいじゃないの〜」
メノリ「そ、そうか?」
チャコ「そうやな。どうせ、どっかでハワードが用を足してた話やろし、くわしく説明されても困るわな」

ガタンとイスを鳴らして、ハワードが勢いよく立ち上がった。

ハワード「っ見たのかっ!?」
カオル「見えただけだ」
ベル「あっ、でも、後ろ姿だけだよ」
ハワード「なっ!?ベルも見たのかっ!!」
ベル「あっ、だ、だからトイレを作るんだよ。急いで…」

ハワードの剣幕に、ベルは冷や汗をかきながら、小声で説明をした。
シンゴは愉快そうに大声で笑い、ハワードはむくれて一番先に『大いなる木』の上へと上がっていった。

ハワード(何だよ、カオルの奴、生意気なこと言いやがって…!ベルめ…、アイツもいい気になりやがって…! いつか見てろよ、二人とも…!)

心の中で、怒りをグツグツと煮えたぎらせていた。


ハワードは欠けてしまったが、その後残る者たちだけで、トイレについての話し合いを行った。
シンゴはノリノリでトイレの設計図を描いた。
深く穴を掘り、その上にトイレ小屋を設置する。
花を飾ろうかしら、と言う乙女チックなシャアラの話に笑いながら、楽しく語らい計画された。
多くを望めばキリがなかったが、何もなく、ただ大きな木があるだけだった湖の岸辺が、少しずつ暮らしの場に変わっていくのは楽しかった。
ひとりでは出来ないことが、皆で力を合わせて出来上がっていく、その喜びは格別なものであった。

そしてトイレは2日で完成した。

ブツブツ一番文句を言っていたハワードが、手伝いのひとつもしなかったハワードが、完成したばかりのトイレを一番先に使った。

そのことで、やっぱりシンゴとのケンカに終わりはなかった。
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