サヴァ小説1

□白い雪
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厚く覆われた暗い空から、雪が降りはじめて三日が過ぎた。
森は薄っすら雪に覆われ、その白い色のため、前よりも明るく見えるようになった。
だが、体に感じる寒さは日々きついものになっている。
それでも、洞窟の家に入れば、焚き火が赤々と燃え、凍えた肌を温めてくれる。
次なる皆の目標は、食料の確保であった。

遺跡の扉を開ける秘策を思いついたというシンゴとチャコ、そしてアダムを洞窟に残し、食料探しに出かけた。
ルナとシャアラ、ベルの三人は北の山の方へ。
メノリとハワード、そしてカオルの三人は、川の仕掛けの様子見と辺りの食料探しとなった。


ルナ「シャアラ、滑るから気をつけてね」
シャアラ「うん。」

ルナたち一行は、ゆるい斜面を登っていた。

シャアラ「ね、ベル。私たち、どこに向かっているの?」

シャアラにとってははじめて足を踏み入れる地域であった。

ベル「うん。前にね、イモを見つけたところに」
ルナ「あ〜!なるほど!もしかしたら、まだイモがあるかもしれないってことね」
ベル「うん」

以前ルナとベル、そしてチャコがイモを掘り出したあの斜面である。
あそこで見つけたイモによって、食料事情ははるかによくなった。
そこへ向かうべく、三人は洞窟の裏手にそびえる山すそを登っていった。


一方、メノリたちは川に到着し、仕掛けにかかっていた魚を獲っていた。

ハワード「うは〜、さむぅ〜〜〜〜」

ハワードは体を揺らし、歯をガチガチと鳴らす。

メノリ「何だ、その体たらくは。見てるだけだろう、お前は…!」

そんなハワードに、呆れきった目線をメノリは送る。

ハワード「そういうメノリだって同じだろ!」

マントの中で両腕を抱くようにして、体を揺すりつつ、ハワードはムッとした眼差しをメノリに向けた。

メノリ「わ、私はその…、タイツを脱がねばならないし…」

ズバリ言われて、メノリは目線を泳がせた。
確かに見てるだけなのだ。
この寒さの中、川に入って魚を獲っているのはカオルだけなのだ。
カオルからすれば、二人ともウザい。
耳に入ってくる二人の会話に、引き結ばれた口元が歪む。

カオル「おい。暇なら、矢にする竹を切ってくれ」

カオルは、川辺の岩の上に置いたノコギリを指して言う。

ハワード「ん? 何だ、また矢を作るのか」
カオル「暇だからな」
ハワード「おう、まかしとけ」

ハワードはノコギリを手にすると、竹林へと入っていった。

メノリ「暇って、いつ暇があると言うのだ、カオル」

メノリはカオルが獲った魚にロープを通すのを手伝いはじめた。

カオル「…夜の火の番のときに」
メノリ「…そうだな、確かに…」

洞窟で過ごす夜は長い。
少しでも室温を下げないために、皆が寝入った後、遅くまで火の番をつけていたのである。


ルナたちはようやく目的の斜面にたどり着いた。
辺りの森の感じは雪が積もったことにより雰囲気が違うが、斜面に埋もれる岩の形には見覚えがある。
ベルとルナはこの場所だと確信して、二人は目くばせあった。
標高があるため、下の洞窟付近よりもずっと雪が多い。
ベルは、持ってきたスコップを用いて、雪とその下の地面を掘った。

シャアラ「わあ…!」
ルナ「うん、やったね…!」

黒々とした土が除けられると、中からゴロゴロとイモが出てきて、脇で見守っていたルナとシャアラは感嘆の声を上げた。
久々のまとまった食料だ。
これで何日もしのぐことが出来る。

二人は袋を準備して、手早くイモをしまいはじめた。
ベルは別の岩の傍も掘りはじめた。
雪がこれ以上に深くなれば、ここはそうそう来られる場所ではなくなる。

ベル「ん…?」

スコップの先の感触に、ベルは顔をほころばせ、屈むとイモを傷つけないよう手で掘った。
見つけたイモを、ベルも袋に次々と入れていった。

ほどなくして、袋は一杯になり、三人は満足した顔を見合わせ、帰ろうと集まった。
その時であった。

グルルルル…。
低い唸り声が響いた。
それに聞き覚えのあるベルとルナは、サーっと血の気が引いた。

ルナ「シャアラっ!逃げるわよっ!」
シャアラ「えっ!?なっ、何っ!?」

緊張し強張った顔でルナは叫ぶ。
突然のことに、シャアラは目をまるくした。
そのシャアラが抱えている袋を、ベルは奪うようにかわりに持った。

ベル「走れっ!!」
ルナ「早くっ!」

ルナにせかされて、シャアラは走り出した。
先に二人を行かせて、ベルは声の主を探した。
この斜面のどこかにいる。

それはすぐにわかった。
雪を蹴散らし、白煙を上げて、前にここであったのと同じサイのような大きな体躯の動物が、
自分に向かって駆けてくるのがはっきり見えた。
ベルは両脇に荷物を抱えて、二人の後に続いた。

「きゃああああ!!」

悲鳴を上げながら、シャアラは必死に斜面を駆けて下って行く。
三人を追ってくる動物は、滑る斜面に木に体をぶつけては、鋭い雄叫びを上げるからだ。
あまりの恐ろしさに、シャアラは心臓が飛び出そうなほどであった。

ルナ「結構…、しつこいね」

ルナは抱えている袋に、息をはずませながら、後ろを警戒して言う。

ベル「このままだと、家にも入ることができない…っ」

袋を二つ抱えて走るベルは、この寒さに汗を流し、とても苦しそうである。
洞窟の家に向かうなら、そろそろ曲がる場所が見えてくる。
だが、このまま追ってこられてはまずいことになる。
あの威力で家に体当たりされては、せっかくの家が壊されてしまう。

ルナ「どこかでまかないと…」

重い荷物に、ルナは息をきらした。

シャアラ「きゃっ!?」

シャアラが足を滑らし、脇の茂みの中に落ちていった。

ルナ「シャアラっ!!」

ルナが急遽立ち止まったのを見て、ベルは抱えている荷物を脇に放った。

ベル「ルナっ!危ないっ!!」

ベルの体ごとルナを脇へと押しやった。
二人は茂みの中を転げ落ち、先に落ちたシャアラのそばに落ちた。


ドドドドド…。
地響きは遠ざかっていった。

ルナ「…行った…みたい…?」
ベル「…うん…」

息を殺し、耳だけで様子を見ていた。
立ち止まらずに、動物は通過していったようなのだ。
うまくやりすごすことが出来て、ホッと息をついた。
ふとベルは我に返った。
硬い地面の並びに、オレンジ色の明るい髪が目に入った。
今までそれに頬をよせていた。
ベルはうつ伏せの頭を起こす。
すぐそばにルナの顔があった。
しかも苦しそうに眉間にしわをよせている。
その顔の下に続く体は、自分の体の下に。

ベル「はぁっ!?」

ベルは、自分がルナに覆いかぶさっていることに気づいて、あわてて飛びのいた。
心臓が異様なほどに早鐘を打つ。

ルナ「んっ、痛ったぁ〜…」

顔をしかめてルナは体を起こすと、隣に横向きで倒れているシャアラを揺すった。

ルナ「シャアラっ、シャアラっ」
シャアラ「ん…、ルナ…?」
ルナ「大丈夫?」
ベル「動物は通り過ぎていった。もう、大丈夫だ」
シャアラ「…うん…。怖かった…」

二人の顔に安堵したシャアラは、顔を歪めた。
ホッとしたのもあって、涙が出そうだった。

ところが。

「うわーーーっ!!」
「きゃーーーー!!」

遠くから悲鳴が上がった。
それはハワードとメノリの声だ。
ルナとベルは顔を見合わせた。
このけもの道は、まっすぐ行くと『みんなの家』へと繋がっている道だ。

ルナ「私、行ってくる! ベル、シャアラをお願いっ!」

ルナは体の痛みも忘れて、動物の足跡が点々と残る道をひた走った。
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