サヴァ小説番外編

□サヴァ女子会
1ページ/1ページ

【サヴァ女子会】


チャコ「はあ〜、今日もええ天気やなあ〜」

晴れ渡る青空を満足気に見上げて、チャコが大きく伸びをするのを、洗い終わった竹のコップがカビないように日に干すため、テーブルに並べていたシャアラは微笑ましく見つめた。

シャアラ「ほんとにそうね。今日はそんなに蒸さないし、爽やかでいいお天気」

空を見上げ、そしてシャアラは家の敷地にある畑へと目線を向けた。
そこでは、ルナとメノリが草むしりをせっせと励んでいた。

シャアラ「洗い物が終わったから、すぐに手伝うね」

呼びかける声に、ルナとメノリはすぐに顔を上げた。

メノリ「もう終わりそうだから、手伝いは無用だ」
ルナ「うん。メノリと二人だけで十分終わるから、大丈夫」

ルナとメノリは畑を見渡した。
イモの葉は青々として、よく茂っている。
抜いた雑草を畑の脇に集め、手についた土を払い落とすと、ルナはメノリを振り返った。

ルナ「メノリ、後は水を撒いて終わりにしましょう」
メノリ「そうだな」

メノリもまた、同じように雑草を集め、ルナの後に続いた。


チャコ「今日は、考えたら女子勢ぞろいやな」
シャアラ「そうね。全員が残っているのは珍しいわ」

ベルとハワードは狩りに出ている。
残るシンゴとカオルの組み合わせで、食料探しに出ているのだ。

チャコ「女子勢ぞろいで、こりゃ〜女子会が出来るなあ」
シャアラ「女子会?」
チャコ「女子が揃って、おしゃべりしたり、食事をしたりして集うことを、『女子会』って言うんやで」
シャアラ「へえ〜」

チャコがしたり顔で話すウンチクに、シャアラは感心しきった声をあげた。
友達のいなかったシャアラにとって、ルナが転校してきて、一緒に行動出来ることで満足したものだったが、世の中には女子会という複数での集まりがあるという。

シャアラ「三人だけでも女子会になるの?」
チャコ「二人からだって、十分に女子会やがな。ちなみに、うちも入れて四人の集いやで〜」
シャアラ「あっそっか。そうよね!」
チャコ「そやそや!うちかておんなのこやで〜」

ピンク色したボディをクネクネさせるチャコに、シャアラはたまらず笑い声を上げた。

ルナ「なになに?面白いことでもあった?」

水撒きを終えたルナが、笑いあって話をしているシャアラとチャコのところへやってきた。

チャコ「今日はおんなのこだけやさかい、女子会が出来るなあって話をしとったんや」
ルナ「女子会?」
メノリ「女子会だと?女子会とは、仕事を終えた女子社員らが、酒を飲んだり食事をしながら、仕事の慰労と親睦を図る集まりではなかったか?」

ルナの後ろからメノリが、花柄の入ったハンカチで手を拭きながらやってきた。

ルナ「大人の女性の集まりってことかな?」
チャコ「ちゃうちゃう、女子が複数集まれば女子会やで」
シャアラ「私たちのも女子会になるの?」
チャコ「そやそや!それに仕事の慰労と親睦を図るのは、どんな年代だって必要やろ?おとこのこーの前では言えない秘密の話とかあるやろ?」
シャアラ「男の子の前では言えない秘密の話…!?」
チャコ「興味あるやろ〜?」

眼鏡を光らせて、ぐいっと前に体を出してきたシャアラの姿に、チャコはニカっと三日月の目で笑った。

ルナ「な、なによ、秘密の話って」
チャコ「そら、ルナくらいの年頃になったら、色々とあるやろ?ほら、色々と〜」
シャアラ「あるの?ルナの秘密の話って、もしかして、恋の話!?」
ルナ「ええっ!?なっ、ないないっ!!」

突如振られた話に、ルナは違うとばかりに顔の前で片手を勢いよく振った。

チャコ「あるやろ〜?ほら、気になる子〜がおる言うてなかったか〜?」
シャアラ「えっ!気になる子って誰のこと!?私も聞きたいわ」
ルナ「もうっ!いつの話よ!転校してきたばかりの頃なら、はじめて会うんだから、どの人だって気になるものでしょ!」
チャコ「そうか〜?」
ルナ「そういうものなの!!」

テーブルの上で、ニヤついているチャコに、ルナは詰め寄り威嚇した。

ルナ「もう〜。なんだかストレスがたまるんだけど…」
チャコ「そら、隠し事をしてるからやろ?ほれほれ、吐いてしまえ〜」
ルナ「チャコ!!」

ケラケラとルナをからかうチャコの笑い声に、メノリは苦笑いを浮かべ、シャアラは微笑ましく見入っていた。

メノリ「ルナとチャコは、家ではいつもそんな感じで言い合ってるのか?」
ルナ「まあ…そんな感じね」
シャアラ「仲が良くて羨ましいわ」
メノリ「そんなものか?」
シャアラ「だって、両親以外に、本音で言い合える間柄って言うのは、なかなかなれないものだもの」
メノリ「…ふむ…」

父親に本音でぶつかれる間柄ではないメノリは、言葉に詰まった。
心で思うままに話を出来たのはシュウと、ここにいるメンバーだけである。
今までは相手が傷つこうが、自分が正しいと思うことを伝えていただけで、交流というやりとりではなかったようにメノリは思う。
良き方向に導いてるつもりが、ただ自分が思う通りに動かそうとしていただけ。

シャアラ「私、変なことを言って嫌われるのが怖くて、チャコみたいにからかったり、色んなことを思うまま思いっきりしゃべってみたいなって思うの」
メノリ「ふむ…だが、チャコは失言ばかりしてる気がするが…」
シャアラ「そうなんだけど、後を引かないって言うか、気を悪くするのは少しの間だけで済んでるのは羨ましいわ」
メノリ「…そう言われると確かにそうだが。まあ、ここではもっと腹が立つ口の達者な者がいるから気にならないのだろう」
ルナ「それ、もしかして」
シャアラ「ふふっ」

誰を言ってるのかわかって、シャアラは思わず笑い声をもらした。
無人島暮らしが長くなって、恐いばかりのハワードの怒鳴り声も、文句を言う声も、前ほど嫌な気持ちにはならなくなっていた。

ルナ「ようは慣れよ。チャコの毒舌も、ハワードの我侭も」
チャコ「毒舌って、その言いようはひどくはないか?ルナ…」
メノリ「遭難以来、ずっと一緒に暮らしているのだから、どんなにうるさくても慣れてしまうのだろうな」

文句を言うだけ言って、ベルになだめられながら、出かけていった今朝のやりとりを思い出し、メノリは思わず苦笑いを浮かべため息を漏らした。
小言は減ってはいないが、次に何を言い出すのか楽しめる余裕が出てきたように感じるメノリである。

メノリ「この暮らしも無駄になってはいないようだ」

いい精神の鍛錬になっている。
メノリは腕を組み、小さく数度頷いて、ルナとシャアラとチャコに不思議そうに見つめられていることには気付かなかった。


☆☆☆

シャアラ「それで、親睦ってどうやって図ったらいいの?」

ここには、食事以外におやつとして食べられるものに余裕などない。
くだものは主食なのである。全員の許可なく勝手に食べるのは、メノリが許さない。
コーヒーもお茶もない。もちろんジュースもない。紫色のジュースは、収穫するために気合を入れて準備をしなければ口に出来ない。
ここにあるのは、豊富に波打つ湖のいつもの水だ。
臭みもなく不純物もない水は、喉を潤すには十分すぎるが、女子会という親睦の合間に飲むには物足りない気がする一品である。
きょとんとした顔で並び立つ三人を前に、チャコは腕を組んで考え込んでいたが、ピコーンと何か閃いて、歯を覗かせてにたりと笑った。

チャコ「ほな、こっちやで〜」

チャコに誘導されて、三人は【みんなの家】の女子部屋へと向かった。
部屋にある三つのベッドのうち、真ん中にメノリとシャアラが腰掛け、ルナは入り口近くの自分のベッドに腰掛けた。
チャコは、「何をはじめるのだろう?」と顔に考えが書いてあるような三人を見上げて、ニタリと微笑んだ。

ルナ「なんでここなの?チャコ」
チャコ「秘密の話をする時には、ほどよく狭い場所の方が盛り上がるんやで?」
メノリ「そんなものか?さっきのテーブルを囲むのでいいではないか」
チャコ「あかんあかん。こういうちょっと薄暗いところで、ボソボソクスクスと話をするんがええんや」
ルナ「またTVか何かの受け入りなの?」
チャコ「居酒屋だって、それぞれが盛り上がって話が出来るように個室があるそうやで?」
ルナ「そこまで真似しなくても」
チャコ「いや、雰囲気から入るのは大事や」
ルナ「あはは…チャコ、普段いったいどんな番組見てるのよ〜」
チャコ「しょうがないやろ?ルナが学校へ行ったら退屈やさかい、家事の合間に情報収集するくらい」
シャアラ「まあ、チャコったら」

険しい顔をするルナに反して、シャアラは微笑んだ。
コロニーでのルナたちの暮らしぶりが見えてきて顔が緩む。

メノリ「それで、何をはじめるというのだ?」
チャコ「うちら女子はこの四人だけやさかい、仲良うしていかんとあかんやろ?」
ルナ「みんな仲良くやってるよ。ね?」

ルナは向かいに並んで座るメノリとシャアラへと言った。
はじめの頃とは違い、メノリのとげとげしい雰囲気も和らぎ、今はとてもいい関係が築けているように思うルナだ。

シャアラ「そうね」

この無人島へ来るまで、委員長であるメノリとは私的な話をしたことがなかったシャアラだ。
意地悪をするようなことはないが、いつも規律にうるさくて、怖い人だと思い込んでいた。
いつもきちんとしていて、面と向き合うと緊張はどうしてもしてしまうが、頼りがいのある反面、料理が苦手で焦がしてしまったりと、知らなかった面を知った今は、恐れよりもかわいい人だと思えるようになった。

メノリ「な、何を笑っている?」

メノリをじっと見た後で、突如クスクスと笑いはじめたシャアラに、メノリは思わず身を引いた。

シャアラ「え?ふふ…メノリってかわいい人だなって」
メノリ「なっ!?」
ルナ「あー!それ私も思ってた!」
メノリ「わ、私のどこがかわいいと言うのだ!!そんなはずはっ」

色白の顔に一瞬にして朱が入り、あわてているメノリの姿に、シャアラもルナも、そしてチャコもニヤニヤしながら見るのであった。

チャコ「ええなあ、これこそ親睦やで」

うんうんと腕を組んで、チャコが満足そうに頷いた。

ルナ「まあ、こうやって女の子だけでおしゃべりするのって楽しいけど」
メノリ「だが、他の者たちが働いている時間にこうやって油を売るのは…」
チャコ「まあまあ、そない言わんと。普段の生活にこうした潤いは必要なんやで〜」
シャアラ「潤いって言っても…」

この無人島には本はないし、ゲームもない。もちろんTVだってない。
物語を作っては綴っていた電子手帳も、代わりになるメモ帳はあるが、それは皆で使う大事なものだ。
ここには、友達がいなかったシャアラが、寂しさを埋めるためのアイテムがまったくない。
思わず俯いていたシャアラは、目の前にあるルナのスポーティーな靴を目にとめて、そして顔を上げていった。
ここでの暮らしは辛いことばかりだけれど、空虚な寂しさはルナと出逢ってからどこかへ消えてしまっていた。

チャコ「シャアラ、ええ顔してるで」
シャアラ「だって、楽しいんだもの」
メノリ「なにがそんなに面白いんだ?」
チャコ「そやなあ…。メノリの百面相とかかいな?」
メノリ「なっ!?私はそんな顔などしてないぞ!!」

頬を染めて怒り出したメノリに、コロコロと笑ってしまい、腕を組んでそっぽを向いてしまったメノリに、謝りなだめる他二人と一匹なのであった。


[fin]

またダラダラと綴ってしまいそうなので、キリのいいところでやめることにしました^^;
メノリをからかうだけでも十分楽しそうなんですけど(笑)
いつまでも交流あるメンバーでいてほしいですね。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ