大人のサヴァ小説
□大人の小話
1ページ/1ページ
診断メーカーのお題を使いました。
今日のカオルナ:洗濯で服を縮めてしまう
同棲してる2人の日常
『結婚してる2人の日常』
「んん〜、いいお天気!」
リビングの窓向こうに広がる青い空に、ルナは思いっきり両腕を伸ばして大きく息を吸い込んだ。
日差しは燦々と神々しく輝いてはいるが、いつもの室内の空気を思いっきり吸い込んだだけで、上がっていたテンションはそこで少し下がった。
ここは地球のフランス基地で、惑星サヴァイヴの湖のほとりの『みんなの家』とは違い、自由に開け閉めできない窓が外気を遮断していた。
「おはよーさん、今日はお休みやろ?もっとゆっくり寝ておったらええのに」
テレビを満喫していたらしいチャコが、くるーりと回転式のイスを回してルナを見上げた。
「おはよう、チャコ。だって、今日は砂塵の舞い上がらない貴重な快晴予報の日なのよ!うかうか寝てなんていられないわ!」
「せやかて、せっかくカオルが帰ってきて、ルナはお休みやし、ゆっくり二人の時間を楽しんでもええんやで?」
音も出さない気の遣いようで、チャコは猫耳にフィットするヘッドホンを手に持ち、にやりと笑った。
「今日はハワードが出ているドラマの日やさかい、うちのことはかまわず、ごゆっくり〜」
「えええ、ちょっと、何よ、そのいやらしい目つきは!」
昔から変わらない、からかう時のニターリとした三日月な目で笑うチャコに、ルナは口を尖らせて唸るように言った。
「あああ、いけない、こんなことやってたら、お日様が昇っちゃうわ」
からかう気持ちが増してきたチャコを置き去りに、ルナは洗濯物の入った籠と洗剤の一式を抱え込むと、玄関へと向かっていった。
「は?どこで洗濯をする気やねん!?」
「仕事場に決まってるじゃない」
「はあ?」
「じゃあね!朝食の前には戻ってくるから。いってきまーす」
シュウン。
自動開閉扉が閉まり、急に静かになった室内に残されたチャコは、ふうとため息をついた。
「仕事場って…。何をどうするんか、気にはなるけど…」
チャコは目の前のテレビを見据え、もうすぐ始まろうとしているハワードが主役のドラマのCMを見つめた。
「まあええわ。やっても洗濯だろうし」
いちいち感想を聞いてくるハワードのドラマは見逃せない。
それに、結構面白い番組を見逃すことは、チャコには出来ないのである。
※※※
ルナが受け持つ植物のブースは、光を取り込む強化ガラスに天井が覆われ、空を恋しく伸び盛る木々が茂っていた。
今日は天気が良いため、そのガラス天井はスライドして、開放されていて、吹き込むやさしい風とあたたかな日差しに葉が照り輝いていた。
その一角にある作業場の流し台で、ルナは嬉々として服を洗っていた。
いつもは全自動の洗濯機で洗う衣類を、こうして手で洗うのは、何だか無人島での暮らしを思い出して楽しい気分にさせる。
あの頃は、着替えも無く、毎日ジャングルを歩き回っていたため、服を綺麗に保つのは難しかった。
冒険を終えた途端、服がひどくボロボロなことに気づいたものだ。
…破けなければ、大きな汚れさえ落ちていれば、寒さをしのげれば。
過酷な環境を過ごした当時お気に入りだった服は、もう10年経った今も、目を瞑れば思い出せるほどだ。
さすがに、大人になった今では、着れたとしても、似合わないだろう。
「あの服、久々に虫干ししておこうかな」
もう袖を通すことはないが、冒険の記念に残して、大切なものとなっている。
「他のみんなは、あの頃の服、どうしちゃったかな?」
ハワードなら、ロカA2に着いた時点で捨ててしまったに違いない。
女の子である自分たちより、もっと体格が変わった男の子たちも、着れない服は処分したことだろう。
「シャアラはどうかな?」
なんとなくシャアラは思い出の宝物として残しているような気がするルナである。
「こんど聞いてみよっか〜」
泡だらけの衣類を力をこめて絞り、タライに新しく水を張る。
泡がなくなるまで、丁寧に濯いで、もう一度絞った。
「はあ…結構重労働ね…」
日差しもあって、額に浮かんだ汗を、ルナは腕で拭う。
そうして苦労して洗い上げた洗濯物は、紐に通され、お日様の元に干された。
「でーきたー!やったわ!」
昔からのクセである片腕でガッツポーズを決めて、たなびく洗濯物を、笑顔で見上げていると、背後から声がかかった。
「終わったか?」
「カオル!」
「うちもおるで」
「チャコまで!」
カオルの広い肩には、ちゃっかりとチャコが乗っていて、ここまで案内したのは自分だと偉そうに胸を張っていた。
「もー!朝食には戻るって言ったでしょ」
「そやかて、もうドラマも終わってしもうたし、カオルも起きて暇そうやったしな」
「いい風だな」
カオルは洗濯物がたなびく空を、目を細めて見つめて呟く。
室内の空気清浄機から流れてくる空気とは違う、本物の空気を吸い込み、そしてルナを見つめた。
「懐かしい匂いがする」
「でしょう!本物の風は、本当の自然にしか出せないんだなっていつも思うわ」
「それで、ルナは何でこの場所で洗濯をしたんだ?」
「洗濯機で洗って、ここで干したって、大差ないとうちは思うんやけど」
「まあ、いいじゃない。昔は湖のほとりで、よく洗い物をしたじゃない。手洗いもたまにはいいものよ」
「そんなもんか?」
「そういうものなの。遅くなってごめんね、ご飯食べに帰ろう?」
カオルとチャコは目配せ合い、カオルは小さく微笑み、チャコは歯を見せて大きく笑う。
「なによ」
「じゃじゃーん。うちとカオルのコラボで、朝食を用意したんやで」
「ええっ!?」
カオルは背中に隠していたバスケットを、ルナの目の前へと差し出した。
籠の中には、サンドウイッチが綺麗に並んでおり、チャコの好物であるオレンジジュースも詰まっている。
「この気持ちのええ、青空の下で食べたら美味しいやろ?」
「ほとんどオレが作ったんだけどな」
「チャコwww」
「挟む具を指導したのはうちやさかい、功労者なのは間違いないねん」
昔から変わらないチャコの口だけの手伝いぶりに、ルナとカオルは耐え切れず声を上げて笑いあった。
自然の風に、葉が揺れる音、あたたかな日差しを堪能しながら、三人は朝食を楽しんだ。
※※※
かくして数時間後。
「えあっ!!!!」
「どうした?ルナ」
「なんやなんや」
洗濯物を取り込みにきたルナと、一緒に来ていたカオルとチャコは、驚きの声にルナを凝視した。
服を手に、ルナはプルプルと肩を揺らしている。
「なしたん?なんぞ虫でもくっついたんか?」
「どうして〜」
今にも膝を崩しそうなルナの姿に、二人は心配顔で更に近づく。
「どれ、見せてみろ」
カオルの呼びかけに、ルナは顔を二人へと向けた。
そして手にしている服を広げて見せる。
「カオルの服が、縮んじゃったー…」
昨日着て来たタートルの黒の服が、すっかり縮んでルナの両手に下がっていた。
「あらららー。あれ、昨日カオルが着てた服とは思えん小ささやな」
「どうしようー」
黙っているカオルが気になり、チャコは思わず見上げた。
への字に結ばれていた口元は、ルナの困りきった下がり眉に耐え切れず噴き出した。
「こんなに縮ませて、オレには着れないぞ、それは」
「だよねえ。伸びる方法はないかなあ、チャコ。アイロンで伸ばす、とか?」
「無理やな。アカンわ」
ばっさりと言われて、ルナはガクリと頭を前に倒した。
「あああ、ごめんね、カオル!お日様の匂いの服に仕上げたかったのに、どうしてなの〜」
「アンタ、力いっぱい洗ったんと違う?」
「…洗った…かな」
「原因は、それや。あと洗剤のせいやろ」
「あ〜…」
「デリケートなもんは、それ専用の洗剤と洗い方があるんやで。うちに聞けば、こんな初歩的な失敗はなかったのになあ〜」
「ああああ、ごめんなさい〜…、カオル、ごめん」
「まあ、いいさ、それはルナが着たらいい」
「えっ、私?じゃあ、責任を持って着るわ」
「えっ」
「えっ?」
冗談のつもりで言ったカオルに、本気の眼差しでルナは頷いてみせた。
「カオル、向こうを向いてて」
「え? ああ、わかった」
くるりとブースの壁へと体を回すカオルだ。
ルナはすばやく上着を脱いで、縮んだ薄手のセーターを着込んだ。
「いいわ。どうかな?似合うかな?」
すっかり縮んでしまったセーターは、もとはカオルが着ていたものとは思えない縮みっぷりとなったが、ルナにはタイトなセーターとなって体を包んでいた。
「ど、どんだけ縮んだんや、その服」
胸のラインをあらわし、袖は七分の長さになり、裾は、ちょっとおへそが見えそうな長さである。
「……」
ルナの服を凝視したまま、瞬きもしないカオルに、ルナは笑顔をほころばせた。
「なんか、いい感じじゃない?ほら、カオルが着てた服だから、このまま愛用しちゃおうかな」
胸を揺らして、ルナはモデルのようなポーズをとってみせる。
「駄目だ!」
「ええー、もったいないよう」
つい大声を出した自分を押さえるように、カオルはボソボソと呟いた。
「…着るのは、その…」
顔に熱が集まるのが耐え切れないとばかりに、カオルの目線はルナから反らされ、葉っぱの茂みへ。
「…家の中で着る部屋着としてなら…」
「いいの!やったー!」
ルナはカオルのもとに駆け出し、飛びつくように抱きついた。
反射的に、カオルもルナの背中に手をまわし、抱きしめる。
抱きしめたルナからは、お日様の匂いがして、カオルの心は幸せに満ちるのであった。
おしまい
☆後書き☆
爆発しろ、とか思いましたw
久々の小説書きは、なかなか言葉が出てこなくていけませんね。